君の隣は、呼吸ができる
――当日。
待ち合わせ場所の駅前は、休日の賑わいを見せていた。
行き交う人たちの話し声に、車の走る音や、店先から流れる音楽が重なっていた。

背伸びをして辺りを見渡すと、人混みの向こうに、一際背の高い男の人を見つけた。

(いた、真樹だ!)

落ち着いた色のスーツ姿に、丁寧に整えられた黒髪。
すっきりとした白いシャツに、深緑色のネクタイ。

一度見たことのある、モデルさんみたいな格好。


私に気付いた真樹は、ふわりとした笑顔になって軽く手を上げた。

(うう……っ、酸素ぉ!)

目が合うだけで、息が止まりそうになる。

何年も隣にいるのに。見慣れているはずなのに。
少し離れたところから真樹を見ると、苦しくなるほど胸が高鳴る。

あんなにかっこいい彼が、私を待ってくれていたんだと思うだけで……。
胸の奥が、くすぐったいくらいに騒がしくなってきた。


秋の気配を含んだ風が吹いて、ゆるく巻いた髪を揺らす。
私はそれを耳にかけながら、大きく手を振り返した。

ヒールの音を響かせながら駆け寄ると、花柄のシフォンワンピースの裾がヒラヒラと揺れる。

「走らなくていいって」

苦笑交じりに言いながら、真樹は私を上から下まで眺める。


「……で。あの日の再現、ってことだよな?」

真樹が少しだけ目を細める。

「そうだよ!」

私は笑顔のまま、大きく頷いた。
< 84 / 92 >

この作品をシェア

pagetop