君の隣は、呼吸ができる
「――ただ、あの時から思ってたんだけどさ」

ふと、真樹の眉間にわずかなシワが寄った。

「えっ、な、なに?」

急に真面目な言い方になったので、私は身構える。

彼の視線が、私の首へとゆっくり下がっていく。

「それ……胸元、開きすぎじゃないか……?」

気まずそうに、そして心配そうに小さく呟く。

「ええっ!? 普通だよ!?」

慌てて自分の胸元に視線を落とす。
少しだけ鎖骨が見える程度で、露出が多い服ではない。
これ以上詰まっていたら、赤ちゃんのよだれ掛けみたいになってしまう。

けれど真樹は、どうにも納得していない顔をしている。
腕を組んで何か考えているようだった。


その様子をじっと見上げているうちに、ある疑惑がふつふつと浮かび上がる。

「まさか……真樹、いつも私の胸ばかり見てる……?」

「違う」

食い気味に否定された。

「俺から見ようとしてるわけじゃない」
「その……勝手に入ってくるんだから、仕方ないだろ」

真顔で、しかも早口で即答される。

(……ん?)
(それって、見えてはいるってこと!?)


「ねえ、じゃあ、いつも私のどこ見てるの?」

気になって一歩詰め寄ってみると、真樹の長い腕が伸びてきた。
大きな手の人差し指が、私の頭のてっぺんをチョン、とつつく。

「ここだな」

「つ、つむじっ!?」

思わず両手で頭を押さえる。

「隣に立ってると、若葉のここが一番よく見えるんだよ」

「そうなの? なんかやだー!!」

「は!? 何でだよ」

心底心外だという顔で私を見下ろす真樹。

「だって、つむじだよ!?」
「髪とか、目とか、む、胸じゃないなんて……っ!」

(ぎゃあ! これじゃ、私の方が胸を見てほしがってるみたいじゃない!?)

顔を真っ赤にする私をよそに、真樹はふっと表情を緩めた。

「俺は気に入ってるんだよ」
「クルクルしてるのが若葉っぽいなって」

「ええっ!? クルクルって何!?」

彼はそれ以上答えず、いつものように楽しそうに笑っているだけだった。



真樹が腕時計をちらりと確認する。

「じゃあ、行くか」

そして、大きな手を差し出す。
まだ少し納得いかない気持ちはあるけれど、彼の手を見ると、私の腕は勝手に伸びてしまう。

当たり前のように手を繋ぐと、私たちはゆっくりと歩き出した。
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