Honey Melty


昨日はとても楽しかった。一生分の運を使い果たした気分だ。部屋のテーブルに置いてある手乗りサイズの観葉植物を見つめて「咲間さんも楽しかったかな…」とこぼす。


居酒屋を出た後、送ると言ってくれた咲間さんと2人、私の最寄りである双葉駅まで藍色の夜空の下を歩いた。

企画部の上司は実はカツラだとか、秘書課にいるお局に告白された話だとか、いろんな話を聞かせてくれた。さすがは咲間さん。私の知らない裏話をたくさん知っていて、私は終始驚くばかり。

私もネタの一つや二つ、あればいいんだけどな。

◯◯株式会社の代表の名前が「うえお かずこ」さんとか。ほら、あい〝うえお〟ってひらがなの順番になってるの。それとか、ネタには…ネタにするには弱いか。うーん。







「真鳥」


カタカタとキーボードの上を指が走る。

ぴたり、と手を止めておそるおそる顔を上げるとそこにいたのは「よっ」と手を控えめに振って笑顔を向けてくれる咲間さんだった。

周りの女性社員はチラチラチラチラ、ヒソヒソヒソヒソ、こちらを見ながら話している。

別に、お互いおかしなことはしていない。だって彼の手には一枚の請求書があって、経理部に提出するついでに声をかけてくれたのだろう。


「お、おはようございます」
「おはよう」
「昨日はありがとうございました」
「こちらこそ付き合わせて悪かった」
「いえ、ぜんぜん!また、……あ、えと、」


また、って、なにをまた二人で、なんて言おうとしてんだ私。烏滸がましすぎる。

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