月影の彼方〜千年の約束〜

第十三話 海


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——

「これが、葵乃姫と出会い、契約に至った話だ」

話し終えると、リッカは少し疲れたように息を吐いた。

長い、長いおとぎ話を聞いたような気分だった。

「俺は疲れた。もう寝る」

「ああ。おやすみ」


千年。

その時間の重さなんて、晴人には想像もできない。

それでもリッカは、約束を忘れなかった。


「……リッカ」

「なんだ」

「話してくれて、ありがとう」

「……なぜお前が礼を言う」

「ううん。おやすみ」


翌朝はよく晴れていた。
施設の連中は、家に帰ったやつが大半で、広々としていた。
人が少ない食堂で、晃と朝ごはんを食べていた。

「晃、海に行こう」

「え?でもお前、海は」
晃が不思議そうに眉を寄せる。

「晴人」

リッカも、驚いたように声を上げた。

「行きたいんだ」

晴人の言葉に、二人は顔を見合わせた。


「晴人、何を考えている」

部屋に戻るとリッカがすぐにそう聞いてきた。

「約束、果たせなかったんだろ」

「は?」

「葵乃姫との約束」

「……それは」

リッカが言葉を詰まらせる。

「海、見せるって約束したんだろ」

「……俺はもう何度も見た」

「知ってる。」

「……」

「でも、俺が行きたいんだ」

「なぜ」

「葵乃姫が見たがってた海を、悲しい場所のままにしたくない」

「……」

「それに、俺も、ちゃんと見たことないから」

「晴人」

「行こう」

晴人は窓の外を見た。

青空が広がっている。

「今から」


「今から!?」

驚ろく晃を引っ張って、電車に乗った。
荷物なんてほぼない。
水着もない。
それでもよかった。

「晴人のやつ、どうしちゃったんだ?」
「……さぁな」
晃に話を振られて、リッカは何も言えなかった。


電車に揺られること数時間。

車窓の向こうに青い海が見えた。


「着いたー!海だ!」

晃のテンションが上がる。

「広いなぁー!」
と晴人が言えば、

「でっかいなぁー」
と晃が被せる。

「見ろよリッカ!」

珍しく子供のようにはしゃぐ晴人の声に、リッカの表情も和らいだ。


ザザーン

波打ち際に立ち、海を見つめるリッカ。
波が打ち寄せる音を聞きながら、そっと目を閉じた。

——海を見てみたいわ
——どこまでも続いているのでしょう

声が聞こえた気がした。

「どうだ?」  

隣に立つ晴人。

「……綺麗だな」

ぽつりと零れた声は、自分でも驚くほど穏やかだった。

海なら何度も見たはずなのに、今日の海は一際綺麗に見えた。

「ああ。俺も。海って、こんなに綺麗な場所だったんだな」

——リッカ、晴人を頼む

「……ああ」

「おーい!綺麗な貝殻発見!こっちにたくさんあるぞ!」

少し遠くから晃の呼ぶ声が聞こえて、晴人はそちらへ駆け出した。

「……哲平。晴人は優しく、強い男に育ったぞ」

そんな晴人の後ろ姿を見ながらリッカが呟く。

そして。

「……見てるか、葵乃」
「海だぞ」

ザザーン

波が打ち寄せる。


帰り道、晃ははしゃぎ疲れたのか口を開けてイビキをかいていた。

「迷惑なやつだな」
その様子に顔を顰めつつ、リッカの声は柔らかい。 

晴人は笑いながら、
「来てよかったな」
そう言ってリッカを見た。

リッカもまた、
「……ああ。ありがとう、晴人」
そう言って笑った。


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