ショートショート 泣き虫ハンバーグ



私二十代の美奈子は、仕事で失敗した。



上司に怒られて、誰も慰める人は誰ひとりいない。



だって、一人で上京してきたんだから仕方ないでしょって。



でも、ものさみしくなるときはあって。



だからこそ、今夜噂のレストランに行くのだけど。



「ここかな?」


と、街の小さな路地裏の一角。



小洒落た童話からでてきた窓。



そんな扉を、3回ノックして。




出てきたのは、猫の被り物(?)をした、バーテンダーみたいな人。



「いらっしゃいませ。


お客さま」



と、案内されたのはシックなロウソクが幾つも立てられた、一つだけの机とイスに案内された。




「ここ……大人気店ですよね?」




猫店員は答えない。




代わりに、メニュー表が出された。




仕方無く見ると「泣き叫ぶゴンドラ」や「フワフワドラゴンの目玉」「アツアツマグマアップルジュース」など、目を引くばかり。




でも、ほぼデザートばかりでーーーー。




「この、「泣き虫ハンバーグ」っていうのをくれませんか?」




と、ガッツリ系を頼んでしまった。




あーあ、軽く食べるつもりだったのに。




暫くお待ちくださいと、姿を消した猫。




どんなメニューが出てくるのかなー、と思ったらーーー。




「うぅ………、お客さん!!



お客さん!!!




食べないでぇええええええええ」



と震える、子どものような声が出てきた。




あれ………ここには、子どもと思わしき人は誰一人として出てこなかった。




と言うか、今ここーーー深夜だよ!?



とあたりを見回したら、「お客さま」と店主に肩を置かれた。




そして、顔を正面に戻すとーー眼の前に涙を浮かべたハンバーグがいたんだ。




アツアツの………涙を浮かべた………人間の目玉が着いたしかも、目をしばしばと目配せさせているそんなハンバーグが。



「ーーい……入りません!!」




と答えたけど「注文したものを、食べないといけないと、貴方を訴えますよ?」とマジマジと顔を見上げながら言われた。



深夜だから、怖くて「た……食べます」と答えちゃったけど………。




「それでは、このハンバーグを食べるときのとっておきのおまじないです」




「おまじない……?」




何のことやら、さっぱりの私は目を瞬かせることしかできなくて。




「このハンバーグを食べるときに、貴方の辛かったことをすべて吐き散らしてください。


そうすることで、旨味や油が増えて食べごたえのあるハンバーグになるのです」




「………つまり、焼いてないんですか?」




と、いうと睨まれたので黙ってやってみることに。




ーーー仕事で、完璧に振る舞えたと思ったら自分の思い違いで部下に悪口を言われていた事。




ーーコピーをすべて過去の資料に間違えて印刷していたこと。



ーーーお局さんに、八つ当たりされたこと。




すべてを吐き出した。



「うん……うん……グズッ。



辛かったねぇっ!!!



僕を食べないでぇぇええ!!」



心なしか、ハンバーグさんはそう言っているけれど………膨らんでいるような気がする。




今ならーーー食べれるかも?



ハンバーグさんには悪いけれど、すかさずナイフを入れて真っ二つに切る。



するとハンバーグの顔は消えてて、肉汁があふれるただの、ハンバーグに。




口に入れた瞬間、それは雲を食べているように軽やかでーーー滑らかな牛乳を飲んているような濃厚さ。



しつこくない塩味でとても、鼻に抜けるチーズの匂いがした。



ぱっと、電気が消えた。



はっと目を開けると、さっきの路地裏だ。



あまりの出来事に、驚きを隠せなかったがーーーまぁ、良いだろう。


何だか足取りが軽い。



心が軽くなったみたいだ。


< 1 / 2 >

この作品をシェア

pagetop