乾杯はふたりだけの秘密

見納め

案の定、翌日会社で顔を合わせた賢吾は、後輩の新田を全面に押し出すような爽やかな笑顔を向けてきた。
「おはようございます」
「お、おはよう」
 動揺しているのが自分だけということが何だか悔しくて、結衣は足を止めずにそのまま自分のデスクに向かった。
「結衣ちゃん、おはよう。金曜は悪かったな」
「え?」
 まさやんの声に振り向き、結衣は一瞬固まった。
「ああ、金曜ね。ううん、気にしないでよ」
「新田も完全復活したみたいで良かったよ」
「うん、そうみたいだねえ」
 忘年会を途中退席したことなどすっかり忘れていた。どうりで皆が賢吾の周りに集まっているわけだ。濃密な二日間を過ごすきっかけとなったのは、彼の看病だったことを思い出した。
 結衣は思わず佐々木の席に目を向けた。休日に誰と何をしようが関係ないとは思いつつも、賢吾とふたりでいるところを見られただけに、変な噂をたてられないかと心配した。一瞬目が合ったように思えたが、佐々木は新人のあざと可愛い女子社員との会話に夢中のようで、こちらを気にする素振りも見せない。このまま忘れてくれると有難い。
 年末年始の休暇まではあと数日あるが、忘年会が済んだことで皆がまったりモードに入っているのがわかる。結衣も同じだった。スマホで掃除便利グッズを検索しながら、家の大掃除と、その後のことを考えていた。
 のんびりしようと帰ったはずの実家で、親や集まった親戚に「彼氏はどうした」「結婚はまだか」と質問攻めに合い、ぐったりして早々に帰宅する姿が目に浮かぶ。ここ数年はそれが続いていて、正直うんざりしていた。今年は仮病を使って辞退しようかという考えが、ちょうど今、頭に浮かんだ。年末年始は、ネットで映画でも観ながらのんびり過ごすのも悪くない。
< 26 / 38 >

この作品をシェア

pagetop