あなたの可愛いおへそのくぼみ
 うららかな土曜の昼下がり。買い物から帰ってきた末莉(まつり)が2階の自室に足を踏み入れた直後、レースカーテンごしに見える隣家の窓がからりと音を立てた。そこから記憶の蓋が開くように、なつかしい幼馴染みの顔が現れ、思わず末莉は窓辺に駆け寄った。

「うそ!ユージンなの!?」
 
 末莉もあわてて自室の窓を開けた。わずか1.5メートルの距離にいるのは、滝本宥仁(たきもとゆうじん)――末莉の初恋の人だった。

「おかえり、末莉」
「た、ただいま……って!なんで私が今帰って来たのが分かったの?エスパー?」
「末莉が下で賑やかに『ただいまー!』つって叫んでたからだろうが。近所じゅうに丸聞こえなんだよ」
「……ただいまは大きな声でって、ママに言われてるからね」
「小学生かお前は。もう25だろ」

 呆れた顔をする宥仁に、思わず末莉は目を瞬いた。
 毎日軽口をたたきあってるような会話だが、実は宥仁と話をするのは数年ぶりなのだ。  
 端正な顔だちはそのままに、宥仁は背が伸びて大人の男のがっしりとした体つきになっていた。前髪を上げているが、少し疲れた雰囲気も加わって、危うい色気も増しているように見えた。
 
 だが二人の間の雰囲気はまるで、子ども時代のような軽く明るいノリのままだった。こんなに違和感が無いことに末莉は自分でも驚く。まるでこの数年間、離れていたなんて嘘みたいだった。

「ユージンこそ、お帰り」
「ああ、ただいま……あと久しぶり」

 あえて以前と変わらない態度に徹しているのだろう。宥仁のその気遣いが逆にこそばゆい。
 彼も同じ事を思っているのか、照れ隠しに頭を掻いている。その仕草が子どもの頃の宥仁を思い出させ、末莉の胸をきゅうっと締めつけた。
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