変わるなら今
が教卓の前に立つのを見ると、私は筆箱の下から小さい紙を取り出し、急いでテストの答えを書き込んでいった。心臓が激しく鳴り、手が震える。強く握っているせいかシャーペンの芯が何度か折れる。それでも何とか全ての答えを書き終わり、息をついた。それを見た沙紀が斜め前の席から、「由麻」と小さな声で呼び、自分の手を私の席の方に軽く伸ばす。それを見て、緊張はまた大きく走った。ここからなのだ。沙紀の席は斜め前だけど、手を伸ばしても届くのか分からないくらい、少しだけ距離が離れている。それでもバレないように渡さなくてはならない。黒板の方を向いて教科書を読んでいる先生を見て、渡すなら今のうちだと思い、私も答えの紙を手に、沙紀の方に徐々に伸ばした。やっぱり、斜め前でもこの距離だときつい。少しだけ席から身体を放して渡そうとしたが、あと少しというところで、緊張で手から紙を取り落とした。
 カサッという小さな音をたてて床に落ち、その音で先生はこちらを振り返った。「…そこ!何してる⁉」という先生の怒声と同時に、周囲の皆は私と沙紀の方に視線を集中した。中でも最も驚いているのは美華と杏奈である。先生は私が落とした紙を拾い上げ、眉を吊り上げて怒鳴りつけた。
「何だこれは?テストの答えじゃないか!どういうことだ⁉」
私は何も言えず、肩をすくませている。沙紀達は想定していなかった状況に、どうするか慌てて考えあぐねている。周囲の皆は私と沙紀を見て、「え、何?カンニング?」、「最低じゃん」、「どうなんのこれ」等と冷ややかな言葉と視線を向けてくる。私は何も言えずに座り込んでいると、沙紀がスッと手を挙げて言った。
「…先生。あたし、さっき瀬川さんが、今回のテストはヤバいからカンニングすると話しているのを聞きました」
私は思いがけない言葉に息を飲み、沙紀の方を見た。クラスの皆もざわめき始める。しかし、沙紀は平然と話し続ける。
「あたし、さっき見たんです。今日が抜き打ちだと知って、瀬川さんが必死に、今の単元の単語とかを紙に書いているところを」
私は再び息を飲む。さっきよりも鼓動が早く鳴り続ける。すると、今度は美華、杏奈も席を立ち、「私も見ました。瀬川さんが何か急いで書いているの」、「私も。近くにいましたので」と話し出した。それを聞いたクラスの皆は、冷ややかな視線を私だけに向けてくる。「え、つまり瀬川さんがカンニングしたってこと?」、「ヤバ…マジなの?」、「いくらヤバいからって流石にあり得ないって」等と口々に罵りながら。私は何も言えないまま小さく首を横に振り続ける。
 先生は、大きい音で手を叩き、静かにするように制した。そして再び、怒りの表情で私の方に向き直り、「瀬川はあとで職員室に来い!良いな?」と言うと、翌日の英語で、全員でもう一度テストをすることを予告し、一番後ろの席の生徒に、テスト用紙を集めるよう指示した。「えぇ~マジかよ~」、「マジ迷惑だわ~」等という声を聞きながら、私は何も言わないまま座り続け、英語の時間が過ぎ去るのをただただ待っている。
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