友達以上恋人未満

第12話:三人の距離

(楓side)
「……なんで、こうなるんだよ」
放課後の図書室。静まり返った室内で、俺はシャーペンの芯をノートに押し付けながら、心の中で毒づいていた。
目の前には、並んで座る由良と朝比奈さん。そして、その対面に一人で座る俺。テスト勉強という名目で集まったはずなのに、机の上の空気は、冷え切ったコンクリートみたいに重かった。
「美奈ちゃん、ここの公式ね、こっちの数字を先に代入すると解きやすいよ」
「あ、本当だ……っ! ありがとう由良ちゃん、すごく分かりやすい」
2人は寄り添うようにして、一冊の参考書を覗き込んでいる。
由良の優しい声、朝比奈さんの嬉しそうな笑顔。……普段なら、なんの変哲もない女子同士の微笑ましい光景だ。
だけど、俺はさっきから、問題集の文字が一つも頭に入ってこなかった。
由良の視線が、一度だって俺に向かない。
いつもなら、図書室で勉強するときは俺の隣が由良の席だった。
俺が「あーまじ眠い、無理」ってシャプペンを放り出したら、由良が『バカ言ってないでやりなさい!』って俺の頭を小突く。
それが、俺たちの『いつも通り』だったはずなのに。
今日、図書室の入り口で、由良は自然な動作で朝比奈さんの隣の席を選んだ。まるで、俺の隣に座るのを拒むみたいに。
『楓には、幸せになってほしいからに決まってるじゃん』
昨日の渡り廊下で、由良が泣きそうなのを堪えながら言った言葉が、頭の中で何度もリフレインする。
幸せになってほしい、だって?
なんで由良がそんなことを決めるんだ。俺の幸せは、朝比奈さんと付き合うことだって、由良が勝手に決めたのか?
「……あの、楓くん?」
ビクッとして顔を上げると、朝比奈さんが心配そうに俺を見ていた。
「これ、もし良かったら……チョコ、食べる? 糖分補給に……」
「あ、あぁ……サンキュー」
朝比奈さんが差し出してくれた個包装のチョコレートを受け取る。
朝比奈さんは何も悪くない。一生懸命で、俺に気を使ってくれて、普通に良い子だ。LINEだって、返せばすごく喜んでくれる。
でも――。
俺は無意識に、朝比奈さんの向こう側にいる由良を見た。
由良は、俺と朝比奈さんのやり取りを見て見ぬふりをするように、ひたすら自分のノートに熱心にペンを走らせている。その横顔が、ひどく遠くに見えた。
俺が朝比奈さんからチョコをもらっても、由良はもう、からかってすら来ない。
中2の冬、あいつに告白されたとき、俺は確かにフった。
今の関係が壊れるのが怖くて、『一番の友達でいよう』って言ったのは俺だ。由良はその約束をずっと守って、俺の『一番近くの特等席』にいてくれた。
なのに、その席から自分から降りようとしている由良を、俺はどんな顔で見ればいいのか分からない。
カサリ、とチョコレートの袋を開ける音が、静かな図書室に虚しく響いた。
隣り合う2人の女子と、拒絶されたように向かい合う俺。
三人の境界線は、俺の知らないところで、どんどん歪んでいっていた。
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