友達以上恋人未満

第11話:置いてけぼりの男

「……おい由良、ちょっと待て」
翌週の放課後。またしても美奈ちゃんを誘って教室を出ようとした私の腕を、ガシッと強い力で掴まれた。
振り返ると、そこにはいつものヘラヘラした余裕なんてカケラもない、険しい顔をした楓が立っていた。
「え……何、楓。部活は?」
「今日はオフだよ。そんなことより、お前ちょっと面貸せ」
楓は私の返事も待たずに、掴んだ腕を引いて歩き出す。クラスメイトたちの「お、なんだなんだ?」という視線が突き刺さる中、私は人気の少ない旧校舎の渡り廊下まで連れて行かれた。
「ちょっと、痛いってば! 離してよ!」
手を振り払うと、楓はゆっくりと手を離し、ポケットに両手を突っ込んで私を睨みつけてきた。その目が、少しだけ泳いでいる。
「……お前、俺に何か隠してんだろ」
「は? 何のこと?」
「とぼけんな。先週からずっと、俺のこと避けてんじゃん。ラーメンも、帰るのも、全部朝比奈さん優先してさ。俺、なんかお前の怒らせることしたか?」
必死に記憶を掘り起こそうとしているのか、楓の眉間のシワがさらに深くなる。
その姿を見て、私は胸が苦しくなった。
怒ってなんてない。むしろ、あんたの恋がうまくいくように、私は自分の心をすり減らしながらアシストしているっていうのに。
「怒ってないよ。ただ最近、美奈ちゃんと話すのが楽しいだけ」
「嘘つけ。お前、朝比奈さんに傘貸した日だってさ……」
楓が言葉を詰まらせる。その目が、私の顔をじっと探るように動いた。
「あの傘、お前の名前書いてあったろ。中2の時、俺が書いたやつ。置き傘なんて最初からないのに、なんで嘘ついてまで、俺と朝比奈さんを一緒に帰らせたんだよ」
「――っ」
心臓が冷たく凍りついた。
見られていた。あいつ、気づいてたんだ。
「お前さ、最近の朝比奈さんとのLINEのことだって、全部知ってただろ。まるで俺の取扱説明書でも渡したみたいに、あいつ、俺の好みのことピンポイントで突いてくるし……」
楓が一歩、私に近づく。その影が私をすっぽりと覆い隠した。
「なぁ由良。お前、俺を朝比奈さんとくっつけようとしてんの? ……なんでそんなお節介焼くんだよ。俺たちの『いつも通り』を壊してまで、何がしたいんだよ」
置いてけぼりを食らった子供みたいに、焦りと苛立ちをぶつけてくる楓。
その無自覚な甘えが、今の私には一番残酷だった。
『付き合うとかは考えられない』ってフったのは、そっちのくせに。
そうやって私が離れていくことに焦るなんて、ずるい。ずるすぎるよ。
「……何がしたい、って」
私は溢れそうになる涙を必死に堪えて、爪が手のひらに食い込むほど拳を握りしめた。
「楓には、幸せになってほしいからに決まってるじゃん」
それが、私の精一杯の、最後の「親友の仮面」だった。
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