友達以上恋人未満
第16話:雨上がりの宣戦布告
カフェでの一件から、美奈ちゃんは学校を休んだ。
いつも明るい彼女の席がぽつんと空いているのを見るたび、私の胸は罪悪感で押しつぶされそうになる。私が中途半端な気持ちでキューピッドなんて引き受けたから、美奈ちゃんを一番傷つける結果になってしまった。
「……由良、ちょっと屋上こい」
昼休み。教室に現れた楓は、いつになく冷徹な、固い声をしていた。
クラスメイトの視線を気にする余裕もないらしく、私の返事も待たずに歩き出す。私は無言で、その後ろ姿を追った。
ぎり、と重い鉄扉を開けた先。
遮るもののない屋上には、生温い初夏の風が吹き抜けていた。
「朝比奈さん、今日学校休んでるの、お前のせいだろ」
振り返った楓の目は、怒りよりも、どこか焦燥に駆られているように見えた。
「昨日、駅前のカフェで何があったんだよ。朝比奈さんから夜にLINEが来た。『私、もう楓くんのこと応援できません』って……それだけ。お前、あいつに何か言ったのか?」
問い詰めるような声に、私の心の中で、ずっと抑え込んできた何かがぷつりと音を立てて切れた。
「何があったか、だって……? あんた、本当に何も分かってないんだね!」
「あ? 何がだよ」
「美奈ちゃんはね、あんたのことが本当に好きなの! あんたに振り向いてもらいたくて、必死でサッカーの勉強して、慣れないLINEして、一生懸命頑張ってたの! ……それなのに、あんたは美奈ちゃんといるときも、私の話ばっかりして!」
叫ぶ私の声が、風に象られて屋上に響く。
「美奈ちゃん、泣いてたよ……。どんなに頑張っても、私とあんたが過ごしてきた時間には勝てないって、ボロボロ涙を流して……っ。あんたが私の名前の入った傘に気づいたのも、美奈ちゃんの前で昔の話をしたのも、全部、美奈ちゃんを傷つけるためだったんでしょ!?」
「違う、俺はそんなつもり――」
「つもりじゃなくても、あんたは美奈ちゃんを利用したの! 私を怒らせるために、私の気を引くために……!」
そこまで言って、私はハッと息を呑んだ。
口にしてはいけない言葉が、勢いで滑り落ちてしまった。
楓の目が見開かれる。屋上に、痛いほどの静寂が満ちていく。
私はボロボロと溢れ出す涙を制服の袖で拭いながら、もう隠しきれない本音を、絞り出すようにぶつけた。
「……ずるいよ、楓。付き合うのは無理だってフったのはあんたなのに。『今まで通り』って私を縛り付けたくせに……。私が他の子とあんたを応援しようとしたら、急に引き止めようとするなんて、ずるすぎるよ……っ!」
何年も、何年も、この『特等席』で笑いながら、心の奥底で血を流し続けていた。
親友の仮面が、完全に粉々に砕け散っていく。
楓は、立ち尽くしたまま、何も言えずに私を見つめていた。その拳が、白くなるほど強く握りしめられている。
「……利用したんじゃない」
長い沈黙のあと、楓が掠れた声で、一歩、私に近づいた。その瞳には、今までに見たことのない、強烈な光が宿っていた。
「俺は、朝比奈さんを利用したわけじゃない。……ただ、お前が他の奴のために俺を押し付けようとするのが、狂いそうなほど嫌だっただけだ」
楓の言葉に、私の呼吸が止まる。
「ずるいって言われてもいい。フったのは俺だけど……お前を誰にも渡したくない。友達のままでいいなんて、もう思えない」
それは、今まで「安全な特等席」に引きこもっていた私たちの日々の、完全な終わりを告げる宣戦布告だった。
いつも明るい彼女の席がぽつんと空いているのを見るたび、私の胸は罪悪感で押しつぶされそうになる。私が中途半端な気持ちでキューピッドなんて引き受けたから、美奈ちゃんを一番傷つける結果になってしまった。
「……由良、ちょっと屋上こい」
昼休み。教室に現れた楓は、いつになく冷徹な、固い声をしていた。
クラスメイトの視線を気にする余裕もないらしく、私の返事も待たずに歩き出す。私は無言で、その後ろ姿を追った。
ぎり、と重い鉄扉を開けた先。
遮るもののない屋上には、生温い初夏の風が吹き抜けていた。
「朝比奈さん、今日学校休んでるの、お前のせいだろ」
振り返った楓の目は、怒りよりも、どこか焦燥に駆られているように見えた。
「昨日、駅前のカフェで何があったんだよ。朝比奈さんから夜にLINEが来た。『私、もう楓くんのこと応援できません』って……それだけ。お前、あいつに何か言ったのか?」
問い詰めるような声に、私の心の中で、ずっと抑え込んできた何かがぷつりと音を立てて切れた。
「何があったか、だって……? あんた、本当に何も分かってないんだね!」
「あ? 何がだよ」
「美奈ちゃんはね、あんたのことが本当に好きなの! あんたに振り向いてもらいたくて、必死でサッカーの勉強して、慣れないLINEして、一生懸命頑張ってたの! ……それなのに、あんたは美奈ちゃんといるときも、私の話ばっかりして!」
叫ぶ私の声が、風に象られて屋上に響く。
「美奈ちゃん、泣いてたよ……。どんなに頑張っても、私とあんたが過ごしてきた時間には勝てないって、ボロボロ涙を流して……っ。あんたが私の名前の入った傘に気づいたのも、美奈ちゃんの前で昔の話をしたのも、全部、美奈ちゃんを傷つけるためだったんでしょ!?」
「違う、俺はそんなつもり――」
「つもりじゃなくても、あんたは美奈ちゃんを利用したの! 私を怒らせるために、私の気を引くために……!」
そこまで言って、私はハッと息を呑んだ。
口にしてはいけない言葉が、勢いで滑り落ちてしまった。
楓の目が見開かれる。屋上に、痛いほどの静寂が満ちていく。
私はボロボロと溢れ出す涙を制服の袖で拭いながら、もう隠しきれない本音を、絞り出すようにぶつけた。
「……ずるいよ、楓。付き合うのは無理だってフったのはあんたなのに。『今まで通り』って私を縛り付けたくせに……。私が他の子とあんたを応援しようとしたら、急に引き止めようとするなんて、ずるすぎるよ……っ!」
何年も、何年も、この『特等席』で笑いながら、心の奥底で血を流し続けていた。
親友の仮面が、完全に粉々に砕け散っていく。
楓は、立ち尽くしたまま、何も言えずに私を見つめていた。その拳が、白くなるほど強く握りしめられている。
「……利用したんじゃない」
長い沈黙のあと、楓が掠れた声で、一歩、私に近づいた。その瞳には、今までに見たことのない、強烈な光が宿っていた。
「俺は、朝比奈さんを利用したわけじゃない。……ただ、お前が他の奴のために俺を押し付けようとするのが、狂いそうなほど嫌だっただけだ」
楓の言葉に、私の呼吸が止まる。
「ずるいって言われてもいい。フったのは俺だけど……お前を誰にも渡したくない。友達のままでいいなんて、もう思えない」
それは、今まで「安全な特等席」に引きこもっていた私たちの日々の、完全な終わりを告げる宣戦布告だった。