友達以上恋人未満
最終話:綺麗で残酷な二人
(美奈side)
風邪を理由に学校を2日休んだ。
部屋のベッドで、私は自分のスマホのトーク画面を何度もスクロールしていた。
楓くんから来ている『体調大丈夫?』という、短くて不器用なメッセージ。
そして、由良ちゃんから来ている『美奈ちゃん、本当にごめんなさい。私、美奈ちゃんに大嘘をついていました』という、長い長い謝罪のメッセージ。
「……バカみたい、私」
膝を抱え、ぽつりと呟く。
気づいていた。最初から、どこかでおかしいとはお守りみたいに思っていたのだ。
サッカーの雑誌を渡したときも、LINEの返信がなくて泣きそうだった夜も、由良ちゃんはいつだって「楓くんの取扱説明書」を完璧に持っていた。それは、何年も隣にいた人にしか書けない、特別なものだった。
私は、由良ちゃんの優しさに甘えて、その攻略本を横取りして、2人の間に無理やり割り込もうとしていただけ。
でも、あの雨の日。
楓くんが差してくれた折りたたみ傘の持ち手に、不器用に書かれた『由良』の2文字を見た瞬間、胸が張り裂けそうになった。
あのとき、楓くんは私を見ていなかった。
傘を私に傾けながら、その目は、ずっとその文字を見つめていた。まるで、そこにいない由良ちゃんの気配を、必死に追いかけるみたいに。
2日ぶりの学校。
放課後の教室は、夕方特有のオレンジ色の光に包まれていた。
私は覚悟を決めて、2人の席へと向かった。由良ちゃんも、楓くんも、私が近づくとハッとしたように表情を硬くする。
「楓くん、由良ちゃん。ちょっと、いいかな」
2人を連れて向かったのは、夕日の差し込む放課後の渡り廊下。
私が一歩前に出て振り返ると、2人はどこか申し訳なさそうな、でも、お互いを意識せずにはいられないような、切ない顔で並んで立っていた。
その2人の立ち姿を見ただけで、答えは最初から出ていたのだと分かってしまう。
入り込む隙なんて、最初から1ミリもなかった。
「由良ちゃん。私に嘘ついてたこと、怒ってないよ」
「美奈ちゃん……」
「私ね、由良ちゃんが羨ましかったの。楓くんの『一番近くの特等席』に、ずっといる由良ちゃんが。だから、応援してほしいなんて言って、由良ちゃんを困らせちゃったんだよね」
私は精一杯の笑顔を作って、カバンからあの折りたたみ傘を取り出し、由良ちゃんの手の中に返した。
「楓くん」
「……おう」
「私、楓くんのことが本当に好きだったよ。……でもね、私の方を向いてくれない男の子を追いかけるのは、もうおしまいにする! でもね、気持ちに区切りをつけたいから言わせて。ずっと好きでした!」
楓くんが、ハッとしたように目を見開く。
「なんか、スッキリした……。私の前で、由良ちゃんの話をしてるときの楓くん、すごくかっこよかった。……でもそれって、由良ちゃんが隣にいるからなんだよね」
私の言葉に、今度は由良ちゃんが息を呑む。
2人の距離が、ほんの少しだけ縮まった気がした。
「2人とも、早く『いつも通り』なんて、やめちゃえばいいのに」
それだけ言って、私は2人に背を向けた。
涙が溢れてきそうだったから、振り返らずに、一気に廊下を走った。
悔しい。本当に、悔しくてたまらない。
だけど、あの綺麗で、残酷なくらいお互いしか見えていない2人の間を壊せるのは、やっぱりお互いだけなのだ。
走り抜ける廊下、窓の外の夕日が、私の初恋の終わりを優しく染めていくようだった。
風邪を理由に学校を2日休んだ。
部屋のベッドで、私は自分のスマホのトーク画面を何度もスクロールしていた。
楓くんから来ている『体調大丈夫?』という、短くて不器用なメッセージ。
そして、由良ちゃんから来ている『美奈ちゃん、本当にごめんなさい。私、美奈ちゃんに大嘘をついていました』という、長い長い謝罪のメッセージ。
「……バカみたい、私」
膝を抱え、ぽつりと呟く。
気づいていた。最初から、どこかでおかしいとはお守りみたいに思っていたのだ。
サッカーの雑誌を渡したときも、LINEの返信がなくて泣きそうだった夜も、由良ちゃんはいつだって「楓くんの取扱説明書」を完璧に持っていた。それは、何年も隣にいた人にしか書けない、特別なものだった。
私は、由良ちゃんの優しさに甘えて、その攻略本を横取りして、2人の間に無理やり割り込もうとしていただけ。
でも、あの雨の日。
楓くんが差してくれた折りたたみ傘の持ち手に、不器用に書かれた『由良』の2文字を見た瞬間、胸が張り裂けそうになった。
あのとき、楓くんは私を見ていなかった。
傘を私に傾けながら、その目は、ずっとその文字を見つめていた。まるで、そこにいない由良ちゃんの気配を、必死に追いかけるみたいに。
2日ぶりの学校。
放課後の教室は、夕方特有のオレンジ色の光に包まれていた。
私は覚悟を決めて、2人の席へと向かった。由良ちゃんも、楓くんも、私が近づくとハッとしたように表情を硬くする。
「楓くん、由良ちゃん。ちょっと、いいかな」
2人を連れて向かったのは、夕日の差し込む放課後の渡り廊下。
私が一歩前に出て振り返ると、2人はどこか申し訳なさそうな、でも、お互いを意識せずにはいられないような、切ない顔で並んで立っていた。
その2人の立ち姿を見ただけで、答えは最初から出ていたのだと分かってしまう。
入り込む隙なんて、最初から1ミリもなかった。
「由良ちゃん。私に嘘ついてたこと、怒ってないよ」
「美奈ちゃん……」
「私ね、由良ちゃんが羨ましかったの。楓くんの『一番近くの特等席』に、ずっといる由良ちゃんが。だから、応援してほしいなんて言って、由良ちゃんを困らせちゃったんだよね」
私は精一杯の笑顔を作って、カバンからあの折りたたみ傘を取り出し、由良ちゃんの手の中に返した。
「楓くん」
「……おう」
「私、楓くんのことが本当に好きだったよ。……でもね、私の方を向いてくれない男の子を追いかけるのは、もうおしまいにする! でもね、気持ちに区切りをつけたいから言わせて。ずっと好きでした!」
楓くんが、ハッとしたように目を見開く。
「なんか、スッキリした……。私の前で、由良ちゃんの話をしてるときの楓くん、すごくかっこよかった。……でもそれって、由良ちゃんが隣にいるからなんだよね」
私の言葉に、今度は由良ちゃんが息を呑む。
2人の距離が、ほんの少しだけ縮まった気がした。
「2人とも、早く『いつも通り』なんて、やめちゃえばいいのに」
それだけ言って、私は2人に背を向けた。
涙が溢れてきそうだったから、振り返らずに、一気に廊下を走った。
悔しい。本当に、悔しくてたまらない。
だけど、あの綺麗で、残酷なくらいお互いしか見えていない2人の間を壊せるのは、やっぱりお互いだけなのだ。
走り抜ける廊下、窓の外の夕日が、私の初恋の終わりを優しく染めていくようだった。