札束でビンタから始まる怪力令嬢の勘違い契約結婚~お飾りの妻は最高です~
「──お母様!?」


オリヴィアは急いで母の元へと駆け寄った。


「もう…………限界……っ」


掠れた小さな声が耳に届いた。
目尻からはとめどなく涙が溢れていく。
擦り切れて冷たくなった手のひらがオリヴィアの服を掴む。
その手は傷だらけで震えており痛々しい。

母は今まで父に意見することはなかった。
彼を信じてここまで支えてきたが、今回のことでプチリと我慢の糸が切れてしまったようだ。


「ミリ、大丈夫か……! 今、医師をっ」

「医師を……呼ぶお金なんてウチにはないわ」

「え……?」


オリヴィアは瞼を閉じて俯いた。その通りだったからだ。
母がぽつりと呟いた声に、父が目を見開いた。
オリヴィアの手を借りて起き上がった母は、覚束ない足取りで父のもとへ歩いていく。

父が腕を伸ばして、母を支えようとしたときだ。
母は父の腕を食い込むほど掴むと、引っ張り上げると大きな音とともにそのまま壁に体がめり込んだ。
ズルズルと尻を突き出しながら、へたり込む父を黙って見ていた。

こうなった母を止められる者は誰もいないとわかっていたからだ。
母が極度に人見知りなのは、人並み外れた怪力を隠すためだ。
その細腕のどこに力があるのか……そのまま足を掴むと重力を無視して父が宙を舞う。
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