余所者-よそもの-【 3 】
「僕は発信履歴に残ってた番号に、電話をかけた」
「………」
「そしたら、君が出た」
そう言って、地下の売人はパーカーからピンク色の髪留めクリップを取り出す。
「……それ」
あの日、あの事務所の二階に落とした、ヘアクリップ。
地下の売人は嬉しそうに自分の髪に留めた。
「そのスマホは、死んだ母さんの形見」
「お母さん……?」
「僕には、母さんの記憶がない」
「………」
「でもその番号は解約できなかった。いつか、母さんのことを知ってる人と話せるかもしれないと思って」
「………」
「そしたら、君と繋がった」
地下の売人は私の右手を、両手でそっと包み込んだ。
「ずっとずっと、生きた母さんの声を聞いてみたかった」
生きた……母さん?
「ちがう……私は、違う。お母さんじゃない」
「うん、わかってる」
わかってる……?
母親を求めているわけではないのなら、一体――……
「僕はただ……」
地下の売人は子供のように無邪気で、けれどどこか空虚な瞳で私をみつめた。
「『おはよう』と、『おやすみ』を、」
「………」
「誰かに言ってみたかったんだ」
この人は、私に何を求めているの……?