彼らの夏が終わる
「……は?」


 すごいのはお前だろ、とか、実はバスケ経験者だったのか、とか。聞きたいことはいくらでもあったのに、言葉はひとつも出てこなかった。


「俺、バスケなんて授業と、昼休みに遊びでしかしたことないです」

「……なのに、バスケ部部長に勝てたって、いやみ?」

「まさか」


 藤也は首を振って、顔を上げた。

 その先ではメイサが愛香に何かを話していた。


「メイサが、俺を勝たせてくれたんです。黒杉先輩の練習を見て、苦手なことや得意なことを見抜いて、それをカバーできるよう、一週間みっちり特訓してくれて。だから、俺が勝てるのはせいぜい1on1で黒杉先輩にだけです。きっと海斗には勝てない」


 一輝は目を細めてメイサを見た。


「ね、先輩。バスケって、みんなでやるんすよね。その『みんな』に、赤江先輩や海斗は入ってませんでしたか?」

「入ってねえわけ……」


 ねえだろ、と言いかけて、一輝は口を閉じた。

 一輝はゆっくり振り向いて愛香を探す。

 愛香の手元には使い古されたノートがあり、メイサの新品のノートと見比べていた。

 その古いノートは練習のときにいつも愛香が持っていたものだ。表紙に一輝が貼ったステッカーが斜めになってついている。

 一輝の脳裏に、一年生の部員が全員辞めた日の光景がよみがえった。

 うまくゴールを決められなかった一年生を愛香が慰めていた。

 一輝はそれに対して怒鳴りつけた。

『おい、マネージャーのお前がそんな甘っちょろいこと言ってるから!』

『闇雲に怒鳴ってうまくなるわけないでしょ!』


 その後も、思うようにプレーできない一年生に


『……やる気あんのかよ』


 と吐き捨てた。すると大雅から、


『怒鳴ってやる気削いでたら意味ねえよ』


 と呆れられて、一輝はなんと答えただろうか。


 一輝は改めて体育館を見渡した。

 朝日が差し込む体育館では、出入り口側で男子バレー部が、舞台側で男子バスケ部が練習していた。

 海斗と翔が、大雅に何か話しかけていた。それを受けて、大雅は愛香に声をかけている。

 愛香は静かに頷き、手元のノートをめくった。


「……入って、なかったみたいだ」

「ええ」

「つーか、俺が『みんな』に入ってなかった、つうか……出てっちゃってた」

「はい」

「……ちょっと、『みんな』のところに戻ってくるわ」

「それがいいと思います」


 藤也はほっとしたように微笑み、一輝が歩き出す背中を静かに見送った。

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