彼らの夏が終わる
 放課後、一輝と大雅が体育館へ向かうと、メイサがメガホンを手に立っていた。


「走るよ」

「無理だけど!?」


 大雅が言い返したが、メイサは無視して続けた。


「まずは簡単なストレッチから。まずは首を右に倒してー、はい次、左ー」

「くっそ、無視しやがって……」


 ぼやきながら首を倒す大雅に、後ろにいた愛香がくすりと笑いかけた。


「大雅、メイちゃんに許してもらえてないから」

「……そだね。ちなみに、どうしたら許してもらえんの?」

「叱られたときに、『副部長として』って言われたでしょ。副部長として、しっかり役割を果たしたら、許してもらえるんだよ」


 大雅は目を細めて、一輝を見た。

 一輝はメイサと向かい合い、掛け声に合わせて首を倒し、肩を伸ばし、股関節をほぐしている。

 ……部長として、一番前でストレッチをしていた。

 その後ろには二年生三人が横一列に並び、さらにその後ろに大雅、最後尾には愛香がいた。愛香は動きが違う部員がいれば、その都度声をかけて修正させている。


「ぐ……」


 大雅は腹筋の痛みに耐えて、黙々と体を動かすことに専念した。

 ストレッチが終わると、今度こそ走りに出た。

 メイサはメガホンを手にしたまま、掛け声をかけ、ルートを指示しながら先頭を走っていた。

 一輝はメイサのすぐ後ろを走っていた。


「三枝、はえーな……」

「でしょー」


 学校の外周を半分ほど走ったところで一輝がつぶやくと、すぐ後ろを走る藤也が嬉しそうに答えた。


「この間の運動会の部活対抗リレー、ぶっちぎりでしたもんね」

「……そういや、そうだったわ。なんだかなあ。俺、三枝のこと、バカっぽいギャルだと思ってたけど、全然そんなことなかった」

「そうっすよね」


 藤也は口の端を上げたものの、目はまったく笑っていなかった。

 その手首には黄色いミサンガが揺れている。


「俺も半年前はそう思ってました。でも、それだけじゃないんです。次に言ったら怒りますよ、黒杉先輩」

「……悪かったよ」


 一輝が気まずそうな顔で答えると、いつの間にか近くを走っていたメイサがメガホンを口に当てた。


「こらー! しゃべってないで走って!」

「すみませんでした、三枝先輩」


 藤也は素早くメイサに笑顔を向けた。


「へいへい、走りますよっと……腰いてえなあ……」

「あんまり痛かったらまなちゃんに言って、マッサージしてもらってね」


 走りながら言うメイサに、一輝は目を丸くした。


「……あいつ、そんなことできんの?」

「勉強したって言ってたよ」

「……そっかあ」

「黒杉先輩、顔がキモいです」

「うるせえ」

「それだけしゃべれるなら、もうちょいペース上げるよー」


 メイサはメガホンを口に当てて、先頭へ飛び出した。

 男子五人は息を切らしながら、その背中を必死に追いかける。最後尾では、自転車に乗った愛香が遅れがちな翔を励まし、ときにはメイサが飛ばしすぎると声をかけてペースを調節していた。

 そんな様子を、サッカー部の男子たちはのんびりと見守っていた。
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