拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
華が無言でいると、朔弥は察したのか恐る恐る華の顔を見る。
「え、だめ?」
「ダメすぎて感心してしまいました。全部酷いです。ギャグかと思ってしまいます」
華の評価に朔弥は再びテーブルに突っ伏した。しかも全部これまでに使ったことがある文句だとは言えなかった。
そんなにか。そんなにダメだったのか……自分の決め台詞。
「あの、まず何をしたらいい? もうこれが板についてて、何から始めればいいか……」
しょんぼりしている朔弥は、職場にいる彼と全く違う。どちらかと言うと、叱られた犬の瑶だ。
「でも今私と話してる感じは普通だと思いますけど」
「だって佐々山さんには全部話しちゃったから……でも職場では違うし」
「そうですね、もう板についちゃってるんですもんね……それに、急に態度が変わるとそれこそ職場の人が何事? って思いかねませんね。少しずつ改めたらどうですか」
「……まず何を?」
「名前、年下や同期の事を呼び捨てにしてますよね。今時あなたぐらいですよ」
「えっ……前の支店ではそう呼ばれてたんだけど……それにその方がかっこいいのかなって」
「随分アットホームだったんですね。でもこっちでは違います。あと全然かっこよくないです。それに、さっき私の事を『佐々山さん』って呼んでたから、普段はさん付けしてるんじゃないんですか?」
鋭い華の指摘に、うっと朔弥は言葉に詰まる。確かにそうだ。心の中では呼び捨てにしていない。前の職場でそうだったからというのもあるが、呼び捨ての方が親近感がわくしかっこいいと思ってそうしていた。でもそれすら、駄目だったとは。
「……明日からさん付けします」
「まずはそこからですね。深見さん、そうやって普通にしてる方がいいですよ。あなたは言動こそ痛々しいものの、悪い人じゃないって分かってましたから」
(言動こそ痛々しいって、ほんとこの人ズバッと言うな……)
朔弥は苦笑いしながらも、そこは口に出さなかった。
「え、どのあたりで?」
「誰かのミスを指摘する時も、責めるようなことは言いませんよね。気を付けてほしい、という注意はしますが、嫌味とか怒鳴ったりは絶対しない。基本、相手を気遣っているなあと。私にも、仕事を詰め込みすぎないようにという心配の言葉をくれていましたから」
華は正直にそう言った。
彼はいつもそうだった。言い方だけ変えて、「次から気を付けてね」「無理しすぎないでね」と伝えれば、きっと女性たちは一気に彼に好感を抱くはず。内容はいいのに、とにかく言葉選びが壊滅的だった。
朔弥はまさか華からそう思われていたとは思わず、面食らう。
(この人……間違いを指摘する時凄くまっすぐだけど、その分褒めるときも真っすぐなんだな……)
今までほとんど話したことがなかった。華は雑談などをしない無口な人だったから。ストレートな物言いに初めは驚いたが、何だか嫌な気はしなかった。
むしろ、正直な人なんだなあ、と。
「そ、それはどうも……」
「いっそ喋らなければいいのにと思います」
「ぐはっ。佐々山さんほんと正直だな……はあ……モテたくてやってたことが全部裏目に出てたなんて……」
「……そんなにモテたいですか」
華が不思議そうに尋ねると、朔弥は大きく頷いた。
「まあモテたいっていうか、普通に恋愛がしたくて! これまで皆無だったし……もう二十七にもなって何を言ってんだよって感じだと思うけど、やっぱり憧れるから」
目を輝かせて言う朔弥を見て、自分とは正反対だな、と華は思った。
もう恋愛なんてこりごりだと思っている自分と、今から恋愛を頑張ろうとしている彼。今後の生き方がまるで違う。
「って、そういえば佐々山さんって彼氏いた? だとしたら俺、誘って悪かったよね……!?」
「いえ、いませんからお構いなく。作る予定もないですし」
「そうなの?」
「枯れてますから、私」
華は自嘲気味にそう言った。
好きな人に捨てられて、後輩に連れていかれた飲み会では笑いものにされた。今思うと、美鈴のような綺麗な子から見ればそうなるのも仕方がないことなのもかもしれない。
だがそんな華に、朔弥は言った。
「別に枯れてるとかじゃなくない?」
驚いて朔弥を見ると、彼は至って真面目な顔をしていた。
「恋愛しないから枯れてるとか、変でしょ。別にその人によってやりたいことや楽しい事って違うだろうし。佐々山さんはいつもミスなく仕事してくれて凄い人だと思ってるよ」
「……は、い」
「はっ! 待って今の、偉そうだった!?」
朔弥が慌てて口を手で覆ったが、華は小さく首を横に振った。
今のは全然偉そうじゃない。それに、多分『彼自身の言葉』だった。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「よ、よかった~……アウトな時は言って? イマイチ自分でよく分かってないから……」
「分かりました。気づいた時には指摘しますね」
「よろしく頼んだ! あれ、そういえば、佐々山さんっていつ辞めるの? 辞める前に、またこうやって相談に乗ってもらえないかなあ……」
朔弥に尋ねられ、華は小さく首を傾けた。
まだ退職届は出していない。すぐにでも出して、一刻も早く会社から離れるつもりだった。
ただ、目の前にいる変わった男性がこれからどう変わるのか、少し見てみたい気がした。
「まだ、考え中です」