拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
「大丈夫ですか? 何か隠す物……あ、コートを着れば」

「今日ロングじゃないんです~……」

「そ、そうか……あ、じゃあこれ巻いてください」

 華は自分が着ていたカーディガンを脱いで、美鈴に手渡した。美鈴は申し訳なさそうに頭を下げる。

「すみませんほんと! 洗ってお返し……いたた」

 そのまま崩れ落ちるようにしゃがみ込む。華は慌てて覗き込んだ。

「大丈夫ですか!?」

「あ~気づくの遅すぎました……もっと早く薬飲んでたら……」

「もう帰った方がいいですよ」

「はい。そうします……ううっ気持ち悪い」

 美鈴が口を手で押さえた。

(可哀想……こういうのって個人差が凄いんだよね。大島さんはだいぶきついみたい)

 華はとりあえず、美鈴が持つカーディガンを持って彼女の腰に巻いてあげた。

「医務室行けそうですか?」

「いや……動けないです……」

「とりあえず薬が飲めるように水、買ってきます。温かい飲み物も。あとタクシー呼んだ方がいいですよね? 家どの辺ですか?」

「ありがとうございます……! 東栄駅の裏なんで近いんですけど」

「ああ、一駅分ですもんね。でも電車は辛いだろうから呼びますね」

「ありがとうございます。あの佐々山さん、こんなことお願いするの図々しいと思うんですけど、家まで付き添ってもらえませんか……? ちょっと一人じゃ心細くて。帰りのタクシー代は出しますから……」

 美鈴は申し訳なさそうに華の顔を見上げた。

(え、私……? 大島さんは他にも仲いい人が……ああでも、この状況を知ってるの私だし、説明しにくいよね)

 さすがにこの状況を断れなかった。

「分かりました。まずは一旦離れますね」

「ありがとうございます!」

 華は急いで自動販売機に向かい、水と温かな飲み物を購入しスマホでタクシーを呼ぶために一旦自席に戻った。自分の分と、それから美鈴のカバンも手にしたところで、その様子を見ていた朔弥が声を掛けてきた。華のただならぬ雰囲気を感じ取ったのだ。

「佐々山さん?」

「あ、深見さん……」

「どうしたの?」

「ちょっと、大島さんが体調悪いみたいで。私家まで送るので、帰りが……」

 今日は帰りに朔弥と話す約束をしていたが、美鈴のことで手一杯になりそうだった。

「え、大島さん?」

 昨晩、美鈴と電話した時のことを思い出す。なぜか心の中で漠然とした不安が生まれた。

「俺は何時でも待ってるから、大丈夫。それより、体調悪いなら俺も付き添おうか?」

 普段なら、朔弥の申し出をありがたく受け取ったかもしれない。だが今回の場合、原因が原因なので、美鈴の気持ちを考えると男性の付き添いは気まずいだろうと思う。

 華は丁重に断った。

「ありがとうございます。でも、タクシーを呼ぶので大丈夫です。 東栄駅の裏らしいので、近いからそんなに時間もかからないだろうし……」

 朔弥は何かを言おうと口を開いたが、すぐに閉じる。

「……そっか。わかった。せめて、タクシーは俺が呼んでおくよ。あと、荷物は運ぶから佐々山さんは大島さんに付き添ってあげて」

「助かります。あの、終わったら連絡しますね」

「うん」

 華はスマホだけポケットに入れ、自分と美鈴のカバンを預けると、コートだけ手にして急いでまたトイレへと向かって行った。そんな後姿を眺めながら、朔弥はぼんやりと思う。

(佐々山さん、優しいからな……って、タクシータクシー)

 朔弥はすぐにタクシーの手配を行った。
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