拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
「冗談ですよ。私、深見さんのああいうところ、面白くて結構好きです」

「ええ……?」

「ほんとです。面白いし、でもあなたは優しいし頼りにもなる。深見さんは素敵な人です」

「……佐々山さんって、結構言うよね」

「私の正直なところがいいって、前に言ってくれたじゃないですか」

 朔弥は華の言葉を聞いてはあーと深くため息をつく。

(そういうこと言っちゃうんだもんなあ……俺、絶対この人には敵わないよ)

 朔弥は悔しそうに少し口を尖らせる。

 恋愛は下手に駆け引きするよりも、華みたいに真っすぐ正直なのが一番だと分かった。

 取り繕うことなく、いつでも思った事を言って自分を保っていればそれでいいのだ。朔弥は改めて思う。

「……じゃあもう正々堂々と」

「え?」

 朔弥は華の隙を狙って、その口に口づけた。

 今度こそは意識して行動した。つい、なんて言葉はもう使わない。だって華が受け入れてくれると分かったから。

 冷たい風が吹いて華の髪が揺れる。朔弥がそれを抑えるようにそっと頭に手を置いた。

 しばらくして離れてみると、華の顔が真っ赤になっている。

「ちょ、ちょっと……外はどうかと思います……!」

「でも誰もいないから」

「どこかから出て来るかもしれません……!」

「あはは、佐々山さん顔が真っ赤だ」

「赤くもなります!」

 そう怒った華は、ふいっと顔を背ける。本気で怒らせてしまったかと、朔弥は慌てた。

「え、ごめんなさい! そんなにダメだった!?」

「……外なら、普通これくらいじゃないですか」

 膨れながら華が朔弥の手をそっと握る。冷えた朔弥の手がぬくもりに包まれ、指が絡んでいく。

 華の行動を見た彼は目を見開くと、脱力したようにその場にへなへなとしゃがみ込んだ。華はどうしたんだと驚く。

「ふ、深見さん!?」

「……も~無理。敵わない。佐々山さんが凄すぎる……」

 翻弄されっぱなしだ。どうしてこうなるんだ。

 おかしいな。自分は今まで『女性を翻弄させる』言動を磨いてきたつもりなのに、むしろそれはどんびきされるものだと判明し、挙句の果てには翻弄されまくっているとは。描いていた恋愛生活と大きく違う。

 朔弥が情けない顔を上げると、華が優しく笑っていたのでふっと力が抜けた。

(まあ……いっか。佐々山さんがいいなら)

 仕方ないとばかりに立ち上がり、華の手を握り返す。

「俺、頑張るね。佐々山さんにあいそつかされないように」

「つかしませんよ、浮気して他の女性を妊娠させなければ」

「……言うねえ」

「助けに入って来て殴り飛ばしてくれた深見さん……かっこよかったです」

 もうだめだと思った時の登場。あれはぐっときたし、一生忘れないシーンだと思う。

 素直に褒められた朔弥は困ったように鼻を搔いた。無我夢中だったからあまり覚えてない。でも佐々山さんの中でかっこよく仕上がってるなら、もうどうでもいい。

「……それは、どうも」

「……夕飯でも食べて行きませんか」

「……うん、そうしよう」

 お互い、改めてきゅっと手を強く握る。相手の体温を確かめるように。

 そのまま二人は穏やかな顔で歩き出す。


(……でも……)

 まだ全部は終わってないんだよなあ。

 朔弥の脳裏には、美鈴の顔が浮かんでいた。

 彼の目の奥は、怒りで満ちている。













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