拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
「あれは秋山さんに頼まれたんです。二人が喧嘩しちゃったから仲直りがしたいって言われて、それで。だってお二人、付き合ってるんですよね?」

 最後の一文を、やけに大きめの声で言った。周りの人々が驚きで息を呑む。

 秋山さんと佐々山さんが? でも、朔弥といい感じなのでは?? みんなの頭の中にそんな疑問が次々浮かんだ。

 すうっと朔弥の目が細くなる。

「俺、言ったよね? それ全部秋山さんの虚言で、二人は付き合ってなんかないって。知ってたはずでしょう」

「確かに深見さんはそう言ってましたけど……あの、言っていいのかなあ?」
 
 美鈴はわざとらしくちらりと華を見た。華は嫌な予感がしてぐっと息を呑む。

「佐々山さんは深見さんに嘘ついてるんですよ。佐々山さんはやっぱり秋山さんと付き合ってるって、私知ってるんです」

「うそ!」

 華はつい大きな声で否定した。そんな適当なこと、どうして言えるんだろう。

 だが美鈴は一切引かなかった。むしろ立ち上がり、さらに大きな声で言う。

「ええ!? 佐々山さんが言ったんじゃないですか。秋山さんと付き合ってるって……佐々山さんこそなんで嘘つくんですか!?」

 そして美鈴はデスクに置いてあったスマホを手にして操作する。

「見てください。秋山さんのお家で撮った写真ですよー」

 出してきた画像は、玄関先で華と浩一が抱き合っているかのように映った写真だった。

 華は一気に青ざめる。

(このために撮ってたの……? 確かに、写真だけ見ると抱き合ってるように見える……!)

「これは大島さんが後ろから私を突き飛ばしたから……!」

「そんな都合のいい噓通用しませんよ。私はただ、佐々山さんの恋を応援してただけなのに」

 まるで自分は被害者と言わんばかりに美鈴は悲しそうな顔をする。

 周りの人々は何が起こっているのか全く理解できていなかった。誰が正しいのか、噓をついているのか、全く予想が出来ない。

 だが美鈴はまだ持っていた。

「それにー……自分でも言ってましたよね?」

 美鈴のスマホから流れてきた音声は、タクシー内で交わした会話だった。



『そういえば、佐々山さん、その後どうなんです? 付き合ってるんですか?』

『いえ! 付き合ってないです! た、ただ……その、近くそうなるかも、とは思います』

『えー! そうなんですか?? びっくり!! 佐々山さんって、もう恋愛とかしないのかと思ってましたあ!』
 
『ま、まあそうなんですけどね。でも前向きになれたんです。そう思わせてくれたことに感謝していて……』

『へ~。そうなんですかあ。入ってそんなに経ってないけど、仕事も真面目ですし凄いですよね! なんていうか爽やかだから、いろんな人から好感を得るタイプで』

『まあ、確かに……私、元々は地味で人付き合いも下手じゃないですか。でも、少しだけ変われた気がするんです。それはやっぱり……』

『彼のおかげですかあ~惚気だなあ、この! 結婚式は呼んでくださいね!』

『え!? い、いやまだそんなことは考えてなくて……』

『アラサーなんですから考えなきゃ。もし挙げるときは、ですよ! 楽しみにしてますからね! でも秋山さんも佐々山さんを大事にしてくれそうだし、ほんとお似合いですね! 私二人が結婚式を挙げるの、楽しみだなあ~』

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