拗らせ俺様が犬系彼氏になった理由
平穏な日々が訪れて、一か月が経っていた。
二人は順調に恋愛を育んでいる。休日や、こうして仕事終わりに待ち合わせて夕飯を共にしたりと、ゆったりした時間を共有していた。
今では部署内ですっかり公認カップルになっている二人だが、他の部署の人間が時折ああして絡んでくる。
それは華だけではなく、朔弥もそうだ。いつかの痛々しい言動は全くなくなったため、彼は女性社員の中で人気を博している。
彼の素直で可愛らしい性格はとっくに周知されてしまい、『痛々しい人』からいつの間にか『かっこいいのに気取らない可愛い人』になっている。華はそれが嬉しくもあり、寂しくもあった。
だがそれは朔弥も同じ気持ちで。
ああして華を堂々と誘う男が増えているのが悩みだ。メイクもおしゃれも覚えた華はどんどんあか抜けて行き、『地味で目立たなかった人』から『儚い可愛さがある人』に変わっており、気が気ではない。
「夕飯、何食べようか?」
朔弥が柔らかな笑顔で華に尋ねる。華は一口コーヒーを飲むと、意を決して用意していたセリフを朔弥に言った。
「うち、来ませんか? 寒いし、一緒に鍋とか」
華のお誘いに、朔弥は顔が固まる。分かりやすい彼に、華は苦笑いした。
しょっちゅう時間を共有する二人だが、あれ以降華の家には来ていなかった。
何となくそういう流れにならなかった。俺様キャラをやめた朔弥は、優しく可愛らしく人畜無害なオーラ。時折、華を守るために黒い顔が出てくるが、すぐに引っ込んでしまい、彼はいつも優しく笑っている。
休日は映画を見たり、水族館へ行ったりして過ごしていた。帰り道にもしかしたら何か……と考える華だったが、朔弥は華を家に送るとあっさり帰っていった。華も誘うタイミングを逃していた。
帰り道にそっと手を繋ぐこと数回。隠れるようにキスをすること数回。現在、それどまり。
もう少しくらい、くっついてみたい。華は密かに思っていた。
「……え、でも」
「それかよければ、深見さんのお家とか。行ったことないから行ってみたくて」
華が少し緊張した声で言うと、朔弥は強く頷いて食い気味に答えた。
「う、うん!!!」
勢いのある返事に圧倒された華だが、朔弥はすぐにハッとした顔になる。
「あ……ちょ、ちょっと待って? でも俺の家、見られたら……」
「……散らかってますか?」
「あっ、そういうわけじゃないけど、うん……い、いいよ」
覚悟を決めた、というように朔弥が頷いたので、華は小さく首を傾げながらも、深く聞くことはしなかった。
スーパーに寄った後、朔弥の住むマンションに着いた頃、すっかり辺りは真っ暗だった。
この時期はすぐに夜が訪れる。時間はあまり遅くないというのに、空は夜の顔をしている。
朔弥のマンションは綺麗で新しい場所だった。
「わあ……ここですか」
「うん、ど、どうぞ」
緊張した面持ちで朔弥が部屋に招き入れる。靴を揃えて華は上がり、短い廊下を進んだ。玄関はすっきりしていて、比較的綺麗だ。
そして、リビングへの扉を開いた。
中は物も少なく、きちんと片付いていた。落ち着いたブラウンを基調とした部屋で、温かみがある。ソファの上には適当に置かれたブランケット、シンクには洗っていないグラスが少し。朔弥の生活感も感じることが出来る部屋だ。
「深見さん、お部屋綺麗ですね……」
「いや、まだ俺引っ越してきてそんなに経ってないから、物が少なくて……あ、どうぞまずは座って」
華は促されるままソファに腰かけた。朔弥は買ってきた物を一旦冷蔵庫に入れ始める。
(ほんと綺麗……私が来たいって言った時、ちょっと渋ってたから、てっきり散らかってるのかと……)
じゃあ、なんであんな戸惑った顔をしていたんだろう。
疑問に思った華だが、ソファの近くにあった小さな本棚が目に入った時、なんとなく察した。
恋愛テクニック、駆け引き、などと書かれた題名の本たちと、数種類の少女漫画。
……なるほど。
これは……。
華の視線に気が付いた朔弥が慌てて本棚を隠す。
「あ~! えっとこれは……!」
「お姉さまの影響で読んでたものですよね? お家にもあったんですね」
「……そう、です」
朔弥はがくりと項垂れたので、華は笑う。
「私は元々知ってるんだから、別にいいじゃないですか」
「いや……俺の部屋にあるとは言ってなかったから……他にも勉強に使ったものがあるし……普通引くかと……」
確かに恋愛テクニックの本まで読んでいるとは知らなかった。これを読んでいたのにあの言動だったとは。著者は一体何を書いたのだろう、中身が気になる。
「別に引きませんよ」
「ほ、ほんとに?」
不安そうに朔弥が華を見てきたので、つい微笑んでしまう。
(ほんと……そのままが一番。可愛い、って思っちゃう)
彼の魅力はこの素直さだ。素直すぎるゆえに変な言動もしてしまった。華にとって、それはもはや笑い話。
華が困っている時に味方でいてくれて守ってくれたことは忘れない。
二人は順調に恋愛を育んでいる。休日や、こうして仕事終わりに待ち合わせて夕飯を共にしたりと、ゆったりした時間を共有していた。
今では部署内ですっかり公認カップルになっている二人だが、他の部署の人間が時折ああして絡んでくる。
それは華だけではなく、朔弥もそうだ。いつかの痛々しい言動は全くなくなったため、彼は女性社員の中で人気を博している。
彼の素直で可愛らしい性格はとっくに周知されてしまい、『痛々しい人』からいつの間にか『かっこいいのに気取らない可愛い人』になっている。華はそれが嬉しくもあり、寂しくもあった。
だがそれは朔弥も同じ気持ちで。
ああして華を堂々と誘う男が増えているのが悩みだ。メイクもおしゃれも覚えた華はどんどんあか抜けて行き、『地味で目立たなかった人』から『儚い可愛さがある人』に変わっており、気が気ではない。
「夕飯、何食べようか?」
朔弥が柔らかな笑顔で華に尋ねる。華は一口コーヒーを飲むと、意を決して用意していたセリフを朔弥に言った。
「うち、来ませんか? 寒いし、一緒に鍋とか」
華のお誘いに、朔弥は顔が固まる。分かりやすい彼に、華は苦笑いした。
しょっちゅう時間を共有する二人だが、あれ以降華の家には来ていなかった。
何となくそういう流れにならなかった。俺様キャラをやめた朔弥は、優しく可愛らしく人畜無害なオーラ。時折、華を守るために黒い顔が出てくるが、すぐに引っ込んでしまい、彼はいつも優しく笑っている。
休日は映画を見たり、水族館へ行ったりして過ごしていた。帰り道にもしかしたら何か……と考える華だったが、朔弥は華を家に送るとあっさり帰っていった。華も誘うタイミングを逃していた。
帰り道にそっと手を繋ぐこと数回。隠れるようにキスをすること数回。現在、それどまり。
もう少しくらい、くっついてみたい。華は密かに思っていた。
「……え、でも」
「それかよければ、深見さんのお家とか。行ったことないから行ってみたくて」
華が少し緊張した声で言うと、朔弥は強く頷いて食い気味に答えた。
「う、うん!!!」
勢いのある返事に圧倒された華だが、朔弥はすぐにハッとした顔になる。
「あ……ちょ、ちょっと待って? でも俺の家、見られたら……」
「……散らかってますか?」
「あっ、そういうわけじゃないけど、うん……い、いいよ」
覚悟を決めた、というように朔弥が頷いたので、華は小さく首を傾げながらも、深く聞くことはしなかった。
スーパーに寄った後、朔弥の住むマンションに着いた頃、すっかり辺りは真っ暗だった。
この時期はすぐに夜が訪れる。時間はあまり遅くないというのに、空は夜の顔をしている。
朔弥のマンションは綺麗で新しい場所だった。
「わあ……ここですか」
「うん、ど、どうぞ」
緊張した面持ちで朔弥が部屋に招き入れる。靴を揃えて華は上がり、短い廊下を進んだ。玄関はすっきりしていて、比較的綺麗だ。
そして、リビングへの扉を開いた。
中は物も少なく、きちんと片付いていた。落ち着いたブラウンを基調とした部屋で、温かみがある。ソファの上には適当に置かれたブランケット、シンクには洗っていないグラスが少し。朔弥の生活感も感じることが出来る部屋だ。
「深見さん、お部屋綺麗ですね……」
「いや、まだ俺引っ越してきてそんなに経ってないから、物が少なくて……あ、どうぞまずは座って」
華は促されるままソファに腰かけた。朔弥は買ってきた物を一旦冷蔵庫に入れ始める。
(ほんと綺麗……私が来たいって言った時、ちょっと渋ってたから、てっきり散らかってるのかと……)
じゃあ、なんであんな戸惑った顔をしていたんだろう。
疑問に思った華だが、ソファの近くにあった小さな本棚が目に入った時、なんとなく察した。
恋愛テクニック、駆け引き、などと書かれた題名の本たちと、数種類の少女漫画。
……なるほど。
これは……。
華の視線に気が付いた朔弥が慌てて本棚を隠す。
「あ~! えっとこれは……!」
「お姉さまの影響で読んでたものですよね? お家にもあったんですね」
「……そう、です」
朔弥はがくりと項垂れたので、華は笑う。
「私は元々知ってるんだから、別にいいじゃないですか」
「いや……俺の部屋にあるとは言ってなかったから……他にも勉強に使ったものがあるし……普通引くかと……」
確かに恋愛テクニックの本まで読んでいるとは知らなかった。これを読んでいたのにあの言動だったとは。著者は一体何を書いたのだろう、中身が気になる。
「別に引きませんよ」
「ほ、ほんとに?」
不安そうに朔弥が華を見てきたので、つい微笑んでしまう。
(ほんと……そのままが一番。可愛い、って思っちゃう)
彼の魅力はこの素直さだ。素直すぎるゆえに変な言動もしてしまった。華にとって、それはもはや笑い話。
華が困っている時に味方でいてくれて守ってくれたことは忘れない。