悪魔は夜に笑う
蒼士郎くんの肩くらいの背の高さで、華奢で長い黒髪の20代前半と思わしき女の子。
彼女は口を開き、何やら蒼士郎くんに声をかけると、そっと腕を広げて彼を抱きしめる。

血の気が引いて平衡感覚がうまく保てない。
私は日陰に引き返して汗を拭った。
暑さによる発汗じゃない。衝撃を受けたことによる冷や汗だった。

耳をつんざくこの音が、セミの鳴き声なのか耳鳴りなのか判別つかない。
ただ、背けたくとも目線は彼らの動向を伺っていた。


私の知らない女に抱きしめられている蒼士郎くん。抱きしめ返すことはしなくても嫌がる素振りはなく、意味ありげな憂いを帯びた表情で声をかけている。

言葉の意味はここからじゃ聞き取れない。
だけど、この前ガールズバーの子に抱きつかれていた時とは明確に違う。大切な人なんだって分かった。
なんだ、信じてよって言ったくせにほかに女いたんだ。

それとも、たった今繋がった赤い糸なのか。
もうそんなのどうでもいい。蒼士郎くんが拒まないことがすべてを物語っている。

ううん、分かってた。こうなることは必然だって。
自分で言ったじゃん。私を利用すればどんな恋愛も成就するって。
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