悪魔は夜に笑う
「や〜ん!蒼士郎さん好きー!!」


結果的に北島に狙われていた女性客を救った形になり、目を輝かせながら俺を見つめてきた。
注目を浴びたから俺は「お静かに」と顔の前で指を立てて彼女を制した。


「マスター、あいつ出禁でいいですよね」


静かに見守っていたマスターに近づいてそっと耳打ちする。
しかし返答がなかったためマスターの顔色を伺う。
しまった。いくらあいつが悪いとはいえ、店の風紀を乱したのは俺の方だ。謝罪を先にするべきだ。


「勝手なことしてすみません。以後気をつけます」


頭を下げて再びマスターの表情に着目する。
暗くて分かりづらかったけど、これ怒ってないな。ただ呆然としてるだけだ。
だとすれば何に?首を傾げると、マスターが口を開いた。


「すごくときめいちゃった……」

「は?」


予想外の言葉を受けて今度は俺がぽかんと口を開けた。


「凄んでるのに絵になるっていうか、任侠映画の俳優みたいだったよ蒼士郎くん」


絶対怒られると思ったのになんで興奮気味なんすかマスター。
すると、北島とのやり取りを目撃していたお客さんの視線がまだ俺にあることに気がついた。

しかしマスターが気の抜けたことをコメントしたものだからクスクス笑っている。
笑い声がいくつか重なって場の雰囲気が柔らかくなっていく。
なるほど、ユーモアを効かせて場を丸く収めたってわけか。
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