悪魔は夜に笑う
「あゆなさん明日の予定は?」


レジの前まで移動して会計をしていると、蒼士郎くんは決済端末を操作しながら予定を聞いてきた。


「こんなに飲んだくれて予定もへったくれもあったもんじゃないよ」

「マッチングアプリはもう辞めたの?」

「お休み中なんです」


明日は昼過ぎに起きるつもりで、その後ひとりで映画を観に行く。
その映画のチケットすら予約してないから予定は確立していない。

婚活しなきゃいけないのは分かってるけど、あの再婚男事件以来やる気がない。
蒼士郎くんはそのことをバカにしてくるかと思ったけどふーんと生返事。


「ちょっと座って待ってて」


会計が終わるとバックヤードに向かい、店内にひとり取り残された。
自分の席に戻り、最後の一杯を口に含む。
無意識にため息が出て、楽しい時間のはずなのに虚無感に脱力する。

蒼士郎くんが戻ってきたのはそんな時だった。
彼は丸めた手を突き出し「手広げて」と私に手のひらを差し出すように促した。

すると手のひらに重みが加わる。
見るとそれは木彫りの猫のキーホルダーが付いた鍵だった。


「何このブサイクな猫」

「マスターの娘さんにもらったキーホルダーなんですけど。手作りだそうです」

「あらー、個性的で素敵」


ハンドメイドっぽい猫だと思ったけど、マスターの娘さんから贈られたものだと思わなかった。
マスターがいなくてよかった。心の拠り所を失うところだった。
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