仔猫のパティスリー
ゃいました」
「――――そう……」
 できあがったお茶を橘に差し出す途中で、あたしはその手を止めた。
「ああいうのが好みかい、仔猫ちゃん?」
 あまりにも冷たく微笑まれたから。
 なんで、怒ってるの?
「彼は素晴らしい作家だよ。……男としてもね。さいわい今はフリーの様だし、連絡先を教えてあげようか」
 顔は笑ってるけど、なんだか声がワントーン落ちてて。明らかに機嫌が悪い感じの、不穏な雰囲気を纏っている。なぜ急に彼の機嫌が悪くなるのかわからない。牧村先生の話をしていただけなのに。このタイミングではまるでヤキモチ――……やき、もち?
「い、いえ。結構です」
 あたしは今度こそお茶を橘に差し出して、回された寿司に目をやった。
 この男があたしのために嫉妬なんてするわけがない。自意識過剰もいいところだ。もう、恥ずかしいったらない。
 もちろん牧村先生と個人的に連絡を取るなんて考えられない。ファンはファンであるべきなのだとあたしは信じている。一線を越えてしまったら夢も希望もないじゃない。
「そうか。じゃあね、仔猫ちゃん、僕と連絡先を交換しないか?」
 思いもよらなかった言葉に、取りかけたサーモンの皿があたしの指先をかすめて過ぎ去って行く。君はいちいち固まる子だね、と橘はくすくす笑いながら、あたしが取り逃したサーモンの皿を取って差し出してくれる。
「連絡先、ですか?」
 なんのために? 学生名簿はあるはずなのに。
「そう。これでも口説いているつもりなんだけどね、仔猫ちゃん」
 色っぽく頬杖なんてついちゃって。

 ああ……――――天変地異だ。




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