ビハインド・ザ・バック ~彼に狙われたら逃げられない~
 さざめきに包まれたビリヤード場の一角、グリーンのラシャの上にあるのは白い手球と、最後の一球となった的球、九番。

 鷹羽(たかはね)くんは青いチョークで先端(タップ)に滑りどめを塗り込んでから片尻を台の(レール)に載せ、キューを背面に構える。

 きたきたきたああ! ビハインド・ザ・バック!

 私は平静を装って彼を見つめる。だけど目がらんらんとしているのが自分でもわかった。アドレナリンがドバドバ出て全身を駆け巡り、心臓が激しく高鳴る。

 ぐっと斜めに伸ばした彼の体、無防備にさらさられる胸板。視線は獲物を狙う鷹のごとく手球と的球の距離を測る。

 ああ、神よ。この瞬間を永遠に残してください。

 祈りもむなしく、目を半ば伏せて狙いを定めた彼は、グリップをぐっと突き出す。
 突かれた手球が滑らかにラシャの上を滑り、的球に当たる。

 カチン!
 硬質な音を響かせ、的球がポケットにイン。

「さすがだね」
「ありがと」

 彼は余裕の笑みを見せる。
 がこん、と的球がレールポケットに落ちる音がした。
< 1 / 17 >

この作品をシェア

pagetop