ビハインド・ザ・バック ~彼に狙われたら逃げられない~
 彼が異動してきたのは春。自己紹介によると、私のふたつ年下の二十七歳。

 背が高く、整った顔立ちに長めの前髪、伏し目がちなのが麗しすぎると女性陣に人気だった。性を感じさせない無性的な美に、彼のファンは多い。

 その週の金曜日、彼の歓迎会があった。彼はずっと笑みを崩さず、だけどそれがゆえに壁があるように見えた。誰も近づけさせない、鉄壁の防御。

 店を出ると課長は言った。
「二次会行こうぜ」

「用事があるので帰ります」
 彼は宣言し、さっさと立ち去った。

 あっけにとられた課長だが、気を取り直してまた呼びかける。
「プールバーとかどうよ」

「水着目当て? 持ってきてないけど」
「セクハラじゃない?」
 ひそひそする女子に、課長は慌てる。

「プールじゃない、プールバー! ビリヤード! 知らないのか。俺が若いころに流行ったのに」
「わかんないでーす」
 門田(かどた)さんがきゃぴっと答えて課長にとどめをさした。

 結局、私を含めた数人で課長と一緒にプールバーに向かう。
 通りを一本入ったところに雑居ビルがあり、地下へと続く階段を降りる。

 課長が受付をしている最中にぼんやりと中を見て、びっくりした。

 鷹羽くんがひとりでプレイしている。
 彼はキューを背中にまわしてぐっと体をそらした。台に半ばもたれかかり、長い脚の片方を軽く折り曲げて空中に放り出し、バランスをとる。
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