【異世界恋愛*短編集】変わり者の令嬢はハッピーエンドをつかみ取る
 クラウディアだって、ほんの小さなころはスタンリーと同じぐらい素直だったのだ。

 だから、後妻である義理の母から「わたくしが今日からあなたのお母様ですよ」と言われて喜んだし、「クラウディア様はわたくしの本当の子ども同然なのですよ」と言われて嬉しくなった。

 けれど。

 弟や妹が生まれるにつれ、その言葉が必ずしも真実ではないと知った。
 弟妹に向ける義母の視線はこの上なく甘く、クラウディアに向けるものとは全く違った。口では「愛している」とささやきながら、買い与えるものや愛情は弟妹たちとあからさまに区別されていた。

「……ですから、わたくしはスタンリー様と初めてお会いしたとき嬉しかったのです」

「なぜだ? 俺こそ、本音と言動が全く噛み合っていない人間だろうに」

 ベッドに戻ったスタンリーが、ふてくされたように告げる。
 いつになく素直に心の内を口にするスタンリーに、クラウディアはくすくす笑った。

「だって、スタンリー様はとてもわかりやすいのですもの」

「……わかりやすい? 俺がか?」

 愕然とするスタンリーに、クラウディアはうなずいて指折り数え上げる。

「口では『興味ない』と言いながら、わたくしがどこにいても気づいてくださいます。わたくしがお義母様に好きだと言った小説は、実はいつもお義母様より先にスタンリー様が読んでいらっしゃいます」

「…………」

「この小説の主人公が大大大好きなのです、とお義母様に打ち明けたら、スタンリー様はすぐに主人公の真似をして剣術を始めましたよね。……ああそれから、スタンリー様がご自分のことを『僕』ではなく、主人公と同じ『俺』と言うようになったのもそのころでした」

「も、もういいわかったやめてくれ」

 スタンリーは真っ赤になって頭を抱え込む。

 小さく丸まってしまったスタンリーに、クラウディアはためらいながらも手を伸ばした。金の癖毛を優しく撫でつける。

「……わたくし、わからないことが怖かったのです」

 ふわふわ。
 ふわふわ。

 ずっと触れてみたかったスタンリーの髪は、想像していた通りとてもやわらかくて触り心地がいい。

「実家の義母は、本当に優しく笑いかけてくれたのです。それなのに、『わたくしの可愛い子どもに伯爵家を継がせるためには、クラウディア様には他家に嫁いでいただかなければ』と陰でこぼしているのを聞いてしまった。……これまでの優しさは嘘だったのかと、怖くなりました」

 他者の本音が読み取れず、読み取れたとしても合っている保証なんかどこにもない。
 怖々と探るようにして幼い日々を過ごしたクラウディアにとって、スタンリーとの出会いは鮮烈だった。

 スタンリーがぶつけてくる感情はいつだって素直で、クラウディアもまっすぐに受け取れるのだ。
 まあスタンリーは素直が過ぎるので、取り扱いが難しい面もあるのだけれど。

「今回も効き目がありすぎてしまいましたね。結果的にスタンリー様にご無理をさせてしまって、本当に申し訳ありませんでした」

「……つまり、知的な男が好きと言ったのは俺に勉強させるためだったのか?」

 むっつりと問われ、クラウディアは面目なく首肯した。
 スタンリーには両親と仲良くしてほしい。それに剣を構えるスタンリーはとても素敵でいつまでだって見ていたいが、やはり侯爵家の子息として勉学は欠かせないと思ったのだ。

「訓練場での見物も、これでも毎回我慢しているのですよ。わたくしが見ていると、スタンリー様はいつまでだって戦い続けて休憩もしてくださらないから」

「そこまでバレていたのか!?」

「はい。スタンリー様はとてもわかりやすいです」

 大真面目に肯定され、スタンリーは今度こそ撃沈した。
 ずりずりとベッドに倒れ込み、体を丸めて真っ赤になった耳をふさぐ。

 クラウディアは傍らに腰を下ろし、スタンリーの髪をいつまでも優しく撫で続けた。
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