サヨナラを言う準備は出来ていた。
「昨日も一昨日もその前も、ずっと言ってるけど……私は部活には入らないって決めてるの」
「どうしてさぁ~。そんなに足速いのに、入らないなんておかしいでしょ!」
「足が速い帰宅部なんて、私以外にもたくさんいるよ」
南高はこの辺りでは指折りの進学校なので、実際には足が速い帰宅部はそう多くはないだろうけれど。
運動より勉強が得意な生徒のほうが、きっと何倍もいる。それでも、足が速いのは私ひとりじゃないはずだ。
「でも矢部さんは中学で陸部だったじゃん! スプリンターだったじゃん! お願いだだよ~。一回でいいから見学に来てよ~」
「悪いけど、私は陸上はやめたの」
「だから何で!? 県大会にも出てたのに、もったいないよ~!」
もったいない。それは親にも教師にも言われたセリフだった。
この高校に入って、私を陸上部に勧誘したのは岡本さんだけじゃない。陸上部の部長や、顧問の先生も熱心に誘ってくれた。
ありがたい、と思わなくちゃいけないのかもしれないけど、どうしても煩わしさのほうが勝ってしまった。
「お願いだからさ~! 一緒に決勝で走った仲じゃない!」