サヨナラを言う準備は出来ていた。
高校二年・夏


食べ終わったお弁当を片付けていると、突然目の前にタブレットPCが差し出された。
ちらりと前に目を向けると、日に焼けた笑顔。陸上部エースの岡本さんが、空いていた前の席にいつの間にか座っていた。


「ねぇ那月ちゃん。ピッチとストライド、どっち強化したらいいと思う?」


隣のクラスの岡本さんは、時々こうして目の前に現れては、唐突に話題を振ってくる。
仕方なくタブレットの画面に目を落とす。映っていたのは、目の前の彼女がトラックを走っている動画だった。


「……このタブレット、岡本さんの?」

「うちの部の。最近部費で買ったんだよ。それより見て! 私の走り! それでちょ~っとアドバイスくれると嬉しいんだけどなあ」
機嫌を取るように言われてもなあと、私はため息をついた。

「私はもうスプリンターじゃないんだよ? アドバイスなら、先輩とか監督とかに求めたほうがいいと思う」

「そんなこと言わずに、お願い! 最近タイム伸び悩んでるんだよ~」


すがりつかれて、ますます困る。
遠くの席から、クラスメイトがこっちをちらちら見ていた。また何か言われてるんだろうなあ。

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