サヨナラを言う準備は出来ていた。
「矢部にとって結星が特別だったのは知ってたから。いつか、結星の後を追うんじゃないかって、本気で思ってたんだよ」
「……そんな勇気、私にはないよ」
それが出来れば楽だったのかもしれない。
でも私には出来なかった。だって、次の夏が来れば、結星にまた会えたから。
「だから、俺がなんとかしなきゃって。矢部に前を向かせてやらなきゃってさ。俺なりに必死だったんだよ」
「笹森くん……」
「でも、違った。お前は俺が思ってたより、ずっと強い奴だった」
「私、そんなに強い奴なんかじゃ……」
笹森くんは首を振り、微笑みながら「まだ、走るの好きだろ」と言った。
どうして。どうしてそんなことを。
私は陸上を辞めたのに。もうスプリンターじゃないし、沙和の誘いも断り続けたのに。
「矢部は走ること自体やめたんだと思ってたんだけど、岡本が言ってたんだ」