ある日再会した幼なじみからの求愛が止まりません!
1話
私はこの先、誰も恋人を作らず、必死に働いて、趣味を楽しんで好きなように生きていくと思っていた。もう、誰の傍に居るのが億劫になった。傍にいた分、相手に期待して、突然裏切られた時、心にポッカリ穴があく。その穴はきっと消えることは無い。誰もこの穴は塞げない。
✵
「︙え?」
月代陽雲、二六歳。
人生において初めて裏切りを味わった。
視線の先には大荷物を持って、「ごめん」と頭を深く深く下げる彼氏。二年前に職場で出会って、一緒に住んで、一緒にご飯も食べて今の今まで暮らしてきた。自分の中ではこの先この人と結婚して、子供も産んで暮らしていくのかな、なんて考えていた。
それなのに、浮気された。
よくドラマとか小説で聞くような、「他に好きな人が出来た」という言葉を彼は並べて頭を下げた。
今まで培ってきたものは何だったのだろうか。一緒にいて、楽しいと思える人だったのに。私は素直じゃないから、目尻が暑くなった目を彼に向けないようにして「︙早く出てって」と告げた。彼は困惑したように「え︙?」と言うものだから私は彼を押しのけては彼の横を通って「出ていくなら、早く出て行きなさいよっ!」と怒鳴った。彼は「本当にごめん」とだけ、それだけ告げて家を出た。
この家は私の家だった。結構いい方のマンション。家賃は二人で払っていたけど、今となっては結局彼が私の家に居候しに来ただけだったのではないかと思ってしまった。そう思う自分が嫌だった。私は誰も居なくなった部屋で泣いた。静かな部屋に私の鼻をすする音が響いた。
「……なんで?」
なんで私は何時も空回りしてしまうのだろう。
❅
その日の夜、眠れそうになくて外に出て少し開けた公園を歩いた。どうせ明日は土曜日だし、少しくらいはいいだろうと思った。はぁ、とため息をついて呆然と歩いていた。深夜も近いこともあってか、若者が集まって騒いでいる。
(絡まれたくないな……)
ああいうのに絡まれたら面倒くさいと思う。私の今の状態で絡まれるのも余計に嫌だ。やだやだ、と思いながらぼーっと歩いていれば、誰かにぶつかった。まずいと思った時には遅いのがほとんど。酒に酔った男数人に絡まれた。
(酒臭っ、……香水の匂いする、キャバクラ行ってきたなこの人ら)
私自身お酒を飲む訳では無いし、そもそもお酒の臭いが苦手。というか、顔が近いから余計に臭う。ちゃっかり私の背中に手を当ててるし。
(もう……本当に勘弁して)
もう止めて、触らないで。いい加減、引っ叩こうかと思った時背後から「おーい、そこのおっさん」と言う声が聞こえた。その声の主の顔は暗くてよく見えないが、片手に缶コーヒーを持って、時々それを飲みながら口を開いた。
「返事ぐらいしろよ、おっさん」
私に絡んでいた男数人はその人の方へ歩いていく。いやいや、これこそまずいんじゃ……?酒に酔った人って何するか分かんないし。男達がその人の前に立った時、その人はこう言った。
「残念だってね、あんたらタイプじゃないってさ」
それを聞いた一人の男がその人の胸ぐらを掴んだ。
(本当にまずいって……!てかタイプとかそんな話してないし!)
と思っていたけれど、その人は男の手首を掴んでは何か言っていた。話していた内容は聞こえなかった。すると突然その場から立ち去って行った。
(え、何だったの?)
結局よく分からないままその場を片付けられた。その人は私の方へ歩いてきては「大丈夫?」と言った。
「あ、はい。助かりました、ありがとうございます」
その人は「ん、」と言ってはまた続けてこう言った。
「でもあんたもあんただよ。こんな夜中に一人で歩く女がいるかよ」
「それはご最もですけど」
そう言うと「なら歩くなよ」と素早いツッコミが返ってきた。それにちょっとムカッときた私は「だって一人になりたかったんですもの」と返した。それを聞いた彼は傍の手摺りに腰をかけた。缶コーヒーを口にしてはこう言う。
「一人、ね……」
「一人になりたい時なんて誰だってあるでしょう?今その状態なんです」
「それは分かるけどね。でも帰りな、危ないから」
どれだけ帰らせたいんだよ。いるじゃん、女の人達いっぱい歩いてんじゃん。
(……でも反抗しても時間の無駄か)
私は渋々「はい、帰ります」と言い、歩みを進めると後ろから「送ってこうかー?」という声が聞こえたから振り返って「結構ですー」と返した。
振り返った時、丁度彼の顔が月明かりに照らされた。笑ってこちらを見つめる彼を私はどこか懐かしく感じていた。
❅
「ぐえっ、久々にベッドダイブ」
この歳になって何をしてるんだろうか。
もう一人で寝るんだな……、と思いながら布団を摩った。私ははぁとため息をついて寝返りを打った。
(そういえばさっきの人……)
何だろうか、初対面じゃない気がする。声も聞いたことがあるような︙。
「あ、あの子に似てるけど……」
あの子……昔実家にいた時近所に住んでいた男の子。確か名前は陽代煌河。真面目で頭良くて、運動出来て、凄く優しい。
「……頭良いかは知らないけど、多分あの人は優しくないな」
それに髪の毛は赤毛だったはず、あの人は黒髪だった。
「染めた……?いやあの人が……無い無い」
確かに綺麗な顔してたけど、本人曰くお洒落とかはあまり興味ないみたいで。髪染めたいな、というのも聞いたことは無い。それにこんな夜中まで起きてないと思うし。
「……まぁ煌河君であることは無いな」
記憶を辿っても結びつくことが無い。きっと彼ではない。
(……今何してるんだろう)
そう思いながら寝返りを打って窓の外を見つめた。
✵
公園から少し歩いたところにある海浜公園。その公園のベンチに寝そべっていた。
「あーあ、写真取っちゃった」
隠し撮りしちゃダメなんだ〜とスマホを掲げて俺は自分に向かってそう言った。
画面に映るのはさっき会った女の写真。彼奴が男に絡まれてる時にこっそり撮った。まぁ横顔だけどね。
「綺麗な顔してんね」
写真に映る女の顔を指で撫でてまた口を開く。
「……本当、相変わらず」
思わず笑いが込み上げてくる。
「そういや此奴昔言ってたな、貴方のこと好きーって」
上がる口角を手の甲で抑えてスマホの画面に映る女を見つめた。あの時俺なんて返したっけ。もう覚えてない。 覚えていたくない。
「ごめんね、陽雲」
俺は口角を下げてはスマホの電源を切って口を開いた。
「もう少し待っててね」
そう言って気だるい体をゆっくり起こした。
❅
あの人と会ってから三日後。
「いででで」
寝違えて首が動かない。朝から最悪だ。しかも月曜日。
(平日に限って……)
首を擦りながらゆっくり立ち上がった。
昨日一昨日と二日かけて元彼との思い出の写真やら何ならを捨てた。おかげでリビングの棚は殺風景だ。
(意外と充実してたのかな……)
それもそうか、二年だもん。長いようで短いのかもしれない。
❅
結局その日一日中首が痛かった。パソコンを打つ時が一番辛かった。加えて色々押し付けられるし。
(いい加減マイペースにやらせてよ)
何でもやってくれると思いやがって、なんて思いながら家に向かって歩いていると「おーい」と言う聞き覚えのある声が聞こえた。隣に見える公園、三日前に行った公園の方を見た。そこには一昨日会った人が手摺りに腰をかけて手を振ってる。私はその人の方へ進み「先日はお騒がせしました」と頭を下げた。その人は笑いながら「何それ」と言った。
「いいよ、気にしてないし。それにお騒がせ野郎はあのおっさん達でしょ」
「それはそうかもしれないけど……助けて貰ったし、お礼くらいはと思ったんだけど」
それを聞いたその人は「ふーん」と言っては立ち上がって私の方へ顔をぐいっと近づけた。
「お礼、ね」
「え、何?」
「あんたは俺にお礼がしたいと」
「う、うん、まぁ……」
しない方が失礼かと、と言うと彼は何か思いついたように笑顔になってはこう言った。
「お腹減った」
「……は?」
「飯、食いたい」
✵
「なんでこうなったの」
玄関で靴を脱ぎながらそう言うと彼は「俺の腹が空いてたから」とくすくす笑って靴を脱いでる。
「他人事だと思って……」
何故がご飯を食べたいと言われ、家に連れてきてしまった。外食で彼に奢るのもそれはそれで出費が重なるし。何だったら自分で作った方がいい。冷蔵庫にあるものは限られているのに、元彼に言っていた癖で「何食べたい?」なんて聞いてしまった。彼は「んー……」と悩むような仕草を見せては口を開いた。
「オムライスかな」
想像していた答えと斜め上をいった。思わず言ってしまった。
「意外と可愛いのね」
地雷だったのか彼は「あ?」と私を睨みつける。咄嗟に「ごめんなさい」と謝る。
「想像していたのと違ったから」
「好きな食いもんなんて何だっていいだろ」
私は、はいはいといってその場を流す。そして向こうで待っててなんて言って手を洗わせてから、ソファーに彼を座らせた。
「……」
私がオムライスを作ってる間彼はスマホをいじったり、キョロキョロ部屋を見渡してみたり、挙句の果てに立ち上がって歩いてみたり。
(……そういえば何歳なんだろう、てか名前も聞いてないや)
私は棚に飾ってある雑貨を見つめる彼に向かって「ねぇ」と声をかけた。
「ん?」
「今更だけど名前聞いてなかった」
「……」
教えて、と言って彼を見つめた。彼は私の方を見ながら口を開いた。
「覚えてないの?」
「︙え?」
「……まじで、覚えてない?」
目付きを変えて、声のトーンも下げて言うものだから「えっと……」と言うと、彼は「まぁいいや、後でね」とはぐらかした。
何故か少し寂しく思う自分がいた。ケチャップライスを炒めながら、そう言って寂しく思う自分がいた。
そう思っていると突然「陽雲」と言う声が聞こえ咄嗟に顔を上げる。……待ってなんで名前知ってるの?彼は先程までの笑みを消してこう言った。
「……どうして名前」
「やっぱり陽雲だ」
そう言うと彼は私の方まで歩いてきて、私の顔をのぞき込むようにして私を見つめてはこう言った。あぁ、知ってるこの顔。
「煌河って言えばわかる?」
✵
「︙え?」
月代陽雲、二六歳。
人生において初めて裏切りを味わった。
視線の先には大荷物を持って、「ごめん」と頭を深く深く下げる彼氏。二年前に職場で出会って、一緒に住んで、一緒にご飯も食べて今の今まで暮らしてきた。自分の中ではこの先この人と結婚して、子供も産んで暮らしていくのかな、なんて考えていた。
それなのに、浮気された。
よくドラマとか小説で聞くような、「他に好きな人が出来た」という言葉を彼は並べて頭を下げた。
今まで培ってきたものは何だったのだろうか。一緒にいて、楽しいと思える人だったのに。私は素直じゃないから、目尻が暑くなった目を彼に向けないようにして「︙早く出てって」と告げた。彼は困惑したように「え︙?」と言うものだから私は彼を押しのけては彼の横を通って「出ていくなら、早く出て行きなさいよっ!」と怒鳴った。彼は「本当にごめん」とだけ、それだけ告げて家を出た。
この家は私の家だった。結構いい方のマンション。家賃は二人で払っていたけど、今となっては結局彼が私の家に居候しに来ただけだったのではないかと思ってしまった。そう思う自分が嫌だった。私は誰も居なくなった部屋で泣いた。静かな部屋に私の鼻をすする音が響いた。
「……なんで?」
なんで私は何時も空回りしてしまうのだろう。
❅
その日の夜、眠れそうになくて外に出て少し開けた公園を歩いた。どうせ明日は土曜日だし、少しくらいはいいだろうと思った。はぁ、とため息をついて呆然と歩いていた。深夜も近いこともあってか、若者が集まって騒いでいる。
(絡まれたくないな……)
ああいうのに絡まれたら面倒くさいと思う。私の今の状態で絡まれるのも余計に嫌だ。やだやだ、と思いながらぼーっと歩いていれば、誰かにぶつかった。まずいと思った時には遅いのがほとんど。酒に酔った男数人に絡まれた。
(酒臭っ、……香水の匂いする、キャバクラ行ってきたなこの人ら)
私自身お酒を飲む訳では無いし、そもそもお酒の臭いが苦手。というか、顔が近いから余計に臭う。ちゃっかり私の背中に手を当ててるし。
(もう……本当に勘弁して)
もう止めて、触らないで。いい加減、引っ叩こうかと思った時背後から「おーい、そこのおっさん」と言う声が聞こえた。その声の主の顔は暗くてよく見えないが、片手に缶コーヒーを持って、時々それを飲みながら口を開いた。
「返事ぐらいしろよ、おっさん」
私に絡んでいた男数人はその人の方へ歩いていく。いやいや、これこそまずいんじゃ……?酒に酔った人って何するか分かんないし。男達がその人の前に立った時、その人はこう言った。
「残念だってね、あんたらタイプじゃないってさ」
それを聞いた一人の男がその人の胸ぐらを掴んだ。
(本当にまずいって……!てかタイプとかそんな話してないし!)
と思っていたけれど、その人は男の手首を掴んでは何か言っていた。話していた内容は聞こえなかった。すると突然その場から立ち去って行った。
(え、何だったの?)
結局よく分からないままその場を片付けられた。その人は私の方へ歩いてきては「大丈夫?」と言った。
「あ、はい。助かりました、ありがとうございます」
その人は「ん、」と言ってはまた続けてこう言った。
「でもあんたもあんただよ。こんな夜中に一人で歩く女がいるかよ」
「それはご最もですけど」
そう言うと「なら歩くなよ」と素早いツッコミが返ってきた。それにちょっとムカッときた私は「だって一人になりたかったんですもの」と返した。それを聞いた彼は傍の手摺りに腰をかけた。缶コーヒーを口にしてはこう言う。
「一人、ね……」
「一人になりたい時なんて誰だってあるでしょう?今その状態なんです」
「それは分かるけどね。でも帰りな、危ないから」
どれだけ帰らせたいんだよ。いるじゃん、女の人達いっぱい歩いてんじゃん。
(……でも反抗しても時間の無駄か)
私は渋々「はい、帰ります」と言い、歩みを進めると後ろから「送ってこうかー?」という声が聞こえたから振り返って「結構ですー」と返した。
振り返った時、丁度彼の顔が月明かりに照らされた。笑ってこちらを見つめる彼を私はどこか懐かしく感じていた。
❅
「ぐえっ、久々にベッドダイブ」
この歳になって何をしてるんだろうか。
もう一人で寝るんだな……、と思いながら布団を摩った。私ははぁとため息をついて寝返りを打った。
(そういえばさっきの人……)
何だろうか、初対面じゃない気がする。声も聞いたことがあるような︙。
「あ、あの子に似てるけど……」
あの子……昔実家にいた時近所に住んでいた男の子。確か名前は陽代煌河。真面目で頭良くて、運動出来て、凄く優しい。
「……頭良いかは知らないけど、多分あの人は優しくないな」
それに髪の毛は赤毛だったはず、あの人は黒髪だった。
「染めた……?いやあの人が……無い無い」
確かに綺麗な顔してたけど、本人曰くお洒落とかはあまり興味ないみたいで。髪染めたいな、というのも聞いたことは無い。それにこんな夜中まで起きてないと思うし。
「……まぁ煌河君であることは無いな」
記憶を辿っても結びつくことが無い。きっと彼ではない。
(……今何してるんだろう)
そう思いながら寝返りを打って窓の外を見つめた。
✵
公園から少し歩いたところにある海浜公園。その公園のベンチに寝そべっていた。
「あーあ、写真取っちゃった」
隠し撮りしちゃダメなんだ〜とスマホを掲げて俺は自分に向かってそう言った。
画面に映るのはさっき会った女の写真。彼奴が男に絡まれてる時にこっそり撮った。まぁ横顔だけどね。
「綺麗な顔してんね」
写真に映る女の顔を指で撫でてまた口を開く。
「……本当、相変わらず」
思わず笑いが込み上げてくる。
「そういや此奴昔言ってたな、貴方のこと好きーって」
上がる口角を手の甲で抑えてスマホの画面に映る女を見つめた。あの時俺なんて返したっけ。もう覚えてない。 覚えていたくない。
「ごめんね、陽雲」
俺は口角を下げてはスマホの電源を切って口を開いた。
「もう少し待っててね」
そう言って気だるい体をゆっくり起こした。
❅
あの人と会ってから三日後。
「いででで」
寝違えて首が動かない。朝から最悪だ。しかも月曜日。
(平日に限って……)
首を擦りながらゆっくり立ち上がった。
昨日一昨日と二日かけて元彼との思い出の写真やら何ならを捨てた。おかげでリビングの棚は殺風景だ。
(意外と充実してたのかな……)
それもそうか、二年だもん。長いようで短いのかもしれない。
❅
結局その日一日中首が痛かった。パソコンを打つ時が一番辛かった。加えて色々押し付けられるし。
(いい加減マイペースにやらせてよ)
何でもやってくれると思いやがって、なんて思いながら家に向かって歩いていると「おーい」と言う聞き覚えのある声が聞こえた。隣に見える公園、三日前に行った公園の方を見た。そこには一昨日会った人が手摺りに腰をかけて手を振ってる。私はその人の方へ進み「先日はお騒がせしました」と頭を下げた。その人は笑いながら「何それ」と言った。
「いいよ、気にしてないし。それにお騒がせ野郎はあのおっさん達でしょ」
「それはそうかもしれないけど……助けて貰ったし、お礼くらいはと思ったんだけど」
それを聞いたその人は「ふーん」と言っては立ち上がって私の方へ顔をぐいっと近づけた。
「お礼、ね」
「え、何?」
「あんたは俺にお礼がしたいと」
「う、うん、まぁ……」
しない方が失礼かと、と言うと彼は何か思いついたように笑顔になってはこう言った。
「お腹減った」
「……は?」
「飯、食いたい」
✵
「なんでこうなったの」
玄関で靴を脱ぎながらそう言うと彼は「俺の腹が空いてたから」とくすくす笑って靴を脱いでる。
「他人事だと思って……」
何故がご飯を食べたいと言われ、家に連れてきてしまった。外食で彼に奢るのもそれはそれで出費が重なるし。何だったら自分で作った方がいい。冷蔵庫にあるものは限られているのに、元彼に言っていた癖で「何食べたい?」なんて聞いてしまった。彼は「んー……」と悩むような仕草を見せては口を開いた。
「オムライスかな」
想像していた答えと斜め上をいった。思わず言ってしまった。
「意外と可愛いのね」
地雷だったのか彼は「あ?」と私を睨みつける。咄嗟に「ごめんなさい」と謝る。
「想像していたのと違ったから」
「好きな食いもんなんて何だっていいだろ」
私は、はいはいといってその場を流す。そして向こうで待っててなんて言って手を洗わせてから、ソファーに彼を座らせた。
「……」
私がオムライスを作ってる間彼はスマホをいじったり、キョロキョロ部屋を見渡してみたり、挙句の果てに立ち上がって歩いてみたり。
(……そういえば何歳なんだろう、てか名前も聞いてないや)
私は棚に飾ってある雑貨を見つめる彼に向かって「ねぇ」と声をかけた。
「ん?」
「今更だけど名前聞いてなかった」
「……」
教えて、と言って彼を見つめた。彼は私の方を見ながら口を開いた。
「覚えてないの?」
「︙え?」
「……まじで、覚えてない?」
目付きを変えて、声のトーンも下げて言うものだから「えっと……」と言うと、彼は「まぁいいや、後でね」とはぐらかした。
何故か少し寂しく思う自分がいた。ケチャップライスを炒めながら、そう言って寂しく思う自分がいた。
そう思っていると突然「陽雲」と言う声が聞こえ咄嗟に顔を上げる。……待ってなんで名前知ってるの?彼は先程までの笑みを消してこう言った。
「……どうして名前」
「やっぱり陽雲だ」
そう言うと彼は私の方まで歩いてきて、私の顔をのぞき込むようにして私を見つめてはこう言った。あぁ、知ってるこの顔。
「煌河って言えばわかる?」
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