自惚れ、アディクト
「だいじょ…う、ぶ…。です」

精一杯の答えだった。

「そ」

神崎さんが私に視線を這わせる。
鼓動が大袈裟なほど加速する。
三パーセントのアルコールで、ほろ酔いにでもなったみたい。頬がぽっと熱くなった。

「あのとき、言いかけてたことってなに?」

ドキッと心臓が飛び跳ねた。

“ずっと、聞きたかったんですけど…私のこと覚えていますか?”

「(このこと…ですよね)」

今になって、自分が紡ごうとした言葉に、恥ずかしさを覚えてしまい口を噤む。結んだ唇の端が解けることはなくて。彷徨う視線が行き場を探す。

神崎さんが、私に意地悪を吹き込んだ。


「教えてくれなきゃ、困るかも」

「どうしてですか?」

「気になって今夜眠れないから」

「(そんな理由で…?)」

戸惑いのあまり狼狽えた。
神崎さんは、私を揶揄ってない。至って真面目な表情。それが余計に私を困らせる。

「(どうしよう…神崎さんのペースに呑まれてる)」

いとちゃんの幸せそうな寝息が微かに聞こえる。
細い首が、かくん…と動いた。神崎さんが横目に「やば、帰るか」と呟く。

「じゃあ、次会ったとき教えて」

「…………」

“次”のある約束が自然と結ばれた。

「おやすみ」


この一言が、昔の記憶と重なって、こころが酷く揺れた。

あの日もそう。
神崎さんから貰った「おやすみ」を、いつまでも胸の中で繰り返していたんだ。
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