四つ葉の栞

四つ葉の栞

あの日から、本を借りるたびに手紙を書くようになった。

『この本の主人公、少し意地っ張りでしたね。』

『私は最後の一文が好きでした。』

『川﨑先輩は、どんな本が好きですか?』

小さな便箋を本に挟み、返却する。

数日後、その本を開くと、今度は蒼からの返事が入っている。

『僕は、登場人物が少しずつ成長していく話が好きです。』

『富田さんの感想を読むと、同じ本なのに違う景色が見える気がします。』

美紗樹は、その返事を読むたびに笑顔になった。

昼休みの図書室。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

交わす言葉は、それだけ。

学校では先輩と後輩。

それ以上でも、それ以下でもない。

それなのに、本の中の手紙では、何時間でも話せる気がした。

好きな作家。

将来の夢。

休日の過ごし方。

落ち込んだ日のこと。

嬉しかった出来事。

少しずつ、お互いのことを知っていく。

『富田さんは、本当に本が好きなんですね。』

『はい。本を読んでいると、一人じゃない気がするんです。』

『僕もです。』

たった二文字の返事なのに、美紗樹の胸は少しだけ温かくなった。

いつの間にか、本を借りる理由は物語だけではなくなっていた。

「今日は返事、来てるかな。」

そんなことを考えながら図書室へ向かう自分に、美紗樹は小さく笑う。

一方、蒼もまた、返却された本を開く時間が楽しみになっていた。

『富田さんなら、この本も好きだと思います。』

そう書いて、おすすめの本を棚から選ぶ。

その本を読んでくれる姿を想像するだけで、自然と笑みがこぼれた。

けれど、卒業式まで残された時間は、あとわずかだった。

そのことを知っているのは、蒼だけだった。
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