お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます
あれから、ラニマール家に処分が言い渡された。

ジュアナは王宮からの命に背き、虚偽の報告をして王子殿下を騙した罪で禁固1年。ラニマール侯爵はジュアナを庇い、娘同様に王子を欺こうとした罪により領地追放処分となった。

本来なら爵位剥奪するところだったが、私が侯爵の娘と認められたことで王子との結婚に支障が出るとして、爵位剥奪は免れた。
さらには。

「今後少しでもエルマに害を及ぼすような言動、行動、態度をした場合、即刻、その爵位は剥奪することとする」

そう宣言したのである。それに驚いたのは家臣らだ。

今までのユアン王子なら容赦なく爵位剥奪し、場合によっては処刑していただろう。ジュアナに対しても侯爵に対しても、処分はかなり甘い方である。正直、かなりの恩情であった。

そこまでしてユアン王子が守ろうとするエルマ嬢とは?

そう、家臣のみならず国民から強く関心を持たれた。

冷徹の王子の心を溶かし、虜にさせたと噂になり、二人の物語に人々は夢中になった。もともと私がラニマール家の血筋なのに使用人として辛い立場にいたということも、国民の親近感や同情を誘ったようだ。


正式に婚約を発表した際は多くの国民が祝福してくれた。

「なんだか夢のようです」
「夢?」
「だって、私ただの使用人だったんてすよ? それが今はユアン王子と結婚だなんて……」

そう話しながら私は自分の指を見つめる。母から貰った指輪以外に、ユアン王子から貰った結婚指輪がはめられていた。

「血統的にはなんら不思議ではないけどな」
「でも、私にとってはラニマール侯爵は父ではありません。私にとって父は、母にこの指輪をあげた育ての父のみです」
「それでいい」

ラニマール侯爵の娘とはいえ、もう二度とラニマール家と関わらせることはしない。そうユアン王子は私に誓ってくれた。

私の気持ちを尊重してくれたことがなにより嬉しい。

「エルマ」

ユアン王子は私の頬に触れて顔を近づけた。私も頬を染めながらそっと目を閉じる。
後少しで唇がつく。

が、その時……。

「お取り込み中申し訳ありません」

私達がいたテラスの入り口から、立膝をついて頭を下げる家臣が気まずそうに声をかけてきた。

あ……。

そっと目を開けると、苦笑いをしているユアン王子。

目が……笑ってませんよ。

「なんだ?」と低い声で返す。王子の纏う空気が一気に冷え込んだ。コーラン様が奥で苦笑いしている。しかし、コーラン様を通さない報告なので、急を要するということだ。しかし、家臣は思わず息を呑む。

「し、至急ご一読いただきたい訴状が……」

一番まずいタイミングで来てしまった家臣は蒼い顔をする。冷徹の王子が顔を出したからだ。私は苦笑しながらユアン王子の腕を軽く擦ると、私に向けてきた目線は柔らかくなった。

そしてユアン王子は大きくため息をつくと「今行く」と少し温度を上げた声で答えた。

私と婚約したからといって、冷徹の王子はそうすぐには消えない。使い分けは必要だとは思うけど、そんなにしょっちゅう出すものでもない。

ユアン王子は私の手を取ると、そこに軽くキスを落として出ていった。

あぁ、それだけで頬が熱い。胸に温かなものが広がる。

母と虐げられていた生活が夢のようだ。今の私を母にも見せたかった。父にも。やはり、私には父は一人しかいない。私を大切にしてくれた父しか……。

使用人が王子様と結婚だなんて物語のよう。

あの時、身代わりになったのはもしかしたら必然だったのかしら。

ねぇ、お母さん。お母さん、私今幸せよ。

母の形見である指輪にそう語りかけた。



END



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