花囲い

 それから井𡈽くんと同じ電車で帰ってしばらくたった夜。自室のカーテンを閉めようとして何気なく外を見る。

 電柱の裏に、人が立っていた。

 距離があるから顔までは見えない。でも、背格好だけは見覚えがあった。

 次の瞬間、その人影は住宅街の奥へと消えた。

 見間違いかもしれない。そう思いながら勢いよくカーテンを閉める。スマホが震えた。また知らない番号だった。

『忘れ物には気をつけて』

 その短い一文に、私は画面を見つめたまま動けなくなる。私は震える指でその番号をブロックした。

「怖い」という感覚だけが、少しずつ現実を追い越していく。

 ♢

 その夜見た夢は最悪だった。

 私はまたぴったりサイズに箱詰めされ、真っ白な部屋に横たわっている。

 体は動かないのに目だけ動く状態で、ご機嫌な井𡈽くんの姿を目で追っていた。

 井𡈽くんは持って来た白い花を一本ずつ私の周りに飾っていく。

 やめて。やめて。やめて。

 花で埋もれた私を優しく撫でてから、井𡈽くんは箱に蓋をした。

 なにも見えない、動けない。箱の中の酸素がなくなり、いずれ酸欠で死ぬ。

 井𡈽くんの鼻歌だけが聴こえる。それは音楽の授業で習ったフォーレの鎮魂歌だった。
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