花囲い

 ――その日の放課後。担任に呼ばれた私は職員室にいた。

「佐藤、言いにくかったらいいんだが」
「はい?」
「最近、井𡈽と何かあったか?」

 心臓が跳ね、体中を血が巡る。
 
 やっと、やっと誰かが気付いてくれたんだ!

「実は」

 担任は困ったようにこめかみをかく。

「井𡈽が相談に来てな」

 その言葉で私の心は再び凍えた。

「佐藤が最近、自分を避けている気がするって」

 頭が痛い、目の前が白んでゆく。

「なにか嫌われるようなことをしたなら謝りたい、でも自分じゃ心当たりがないって」

 先生は私を刺激しないよう努めて優しい声で続ける。

「お前たち、仲がいいだろ」

 違う。
 違う。
 違う。

 喉まで出かかった声は、口から出なかった。

「青春だな」と担任は笑う。

「井𡈽もお前も、他人のことを考えられる人間だ。ちゃんと話し合えば解決する」

 私は曖昧に頷き、フラフラと職員室を出た。

 廊下に出ると窓際で井𡈽くんが待ち構えるように立っていた。夕日が差し込み、逆光になってその表情は見えない。
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