花囲い

 ♢

 翌日学校へ行くと、担任が私を見るなり心配そうな顔をする。

「佐藤、顔色が悪すぎるな。まだ治ってないだろ」
「実は、ちょっとまだ」
「無理はするなよ。昨日井𡈽が家にプリント届けようかって言ってくれてたから」

 私はピタリと足を止める。担任は「あっ」と口を開いて、焦ったように続けた。

「いや、断ったから安心しろ。お前らまだ喧嘩してるんったな。家も近いし、助かると思ったんだが」

 私は無表情で首を振る。断ってくれたことだけが救いだった。

 ――昼休み。私は決めていた。
 井𡈽くんと話す。逃げても何も変わらない。
 中庭で待っていると、井𡈽くんはすぐに来た。

「沙羅さん、具合はどう? 心配し――」
「もう私に構わないで」

 井𡈽くんの言葉を遮って、私は自分の意思を示した。

「嫌なの、もう、井𡈽くんといるのが。怖くて、つらい」
「沙羅さん」

 こぶしで顔を覆う私に井𡈽くんが静かに言う。

「最近、眠れてないよね」

 どうして知っているんだろう。

「顔色悪いし。疲れてるんだ」

 不気味なほどに優しい声だった。

「少し休んだほうがいい。僕がいない方がいいならそれでいいから」

 その時は私の言うことを受け入れてくれたのだと思っていた。

 その日の放課後。

 美咲が私を追いかけて来るまでは。
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