その崩れ方が、好きです〜完璧なホテルマネージャーは、私にだけ素顔を見せる〜
静かな声がして振り返ると、藤堂さんがこちらを見ていた。猫はもういない。
眼鏡はまだ外したままで、彼の瞳はどこか彷徨うように泳いでから、ゆっくりと私を捉えた。
焦点が合っていないはずなのに、心臓の奥まで見透かされているような、奇妙な熱が全身に走る。
「い、いえ、今来たところで」
嘘だった。下手な嘘だと、自分でもわかった。
藤堂さんは追及もせず、少し間を置いてから「……おはようございます」と言って、眼鏡をかけ直した。
細いフレームが定位置に戻ると、あの鋭い輪郭も一緒に戻ってくるようだった。
私たちは、並んで搬入口を離れた。廊下に、二人分の足音が響く。
フロントへ戻り、自分のポジションに就いてからも、私の心臓はまだうるさかった。
モニターを立ち上げながら、私はさっき感じたことをもう一度確かめるように、そっと喉に手を当てた。
まだ、ちくちくと疼いていた。