その崩れ方が、好きです〜完璧なホテルマネージャーは、私にだけ素顔を見せる〜
あの朝から、私の早起きが続いている。目覚ましより先に目が覚めて、いつもより十分早く更衣室を出て、搬入口へ続く廊下を曲がるのが日課になった。
そこで繰り広げられる光景は、いつも同じだ。猫は、相変わらず藤堂さんに懐かない。その繰り返しを、私は毎朝こっそり見ていた。
隙のない人ほど、ふと見せる素顔が眩しい。藤堂さんは、そういう顔を絶対に見せない人だと思っていた。なのに、猫にだけは見せている。
誰も知らない、藤堂さんの不器用な横顔を、私だけが知っている。独り占め、という言葉が頭をよぎって、自分の頬が熱くなるのを感じた。
◇
「ねえ、最近なんかにやにやしてない? 詩織、朝早く出勤するようになったって聞いたよ」
昼休憩の休憩室で、千夏が私の顔を覗き込んだ。
同期入社の田山千夏は、サボりの天才で、人の表情を読むことにかけては社内一だと思っている。藤堂さんの次に、この人には敵わない。
「別に、にやにやなんて……」
「してる。絶対してる。誰? 社内でいい人でも見つかった?」
図星をつかれた私は視線を逸らした。それが答えになったらしく、千夏の目が輝いた。
「もしかして、藤堂さん?」