音のない世界
高校に入学して一か月。

今日も朝四時に起きる。

新聞配達を終え、急いで学校へ向かう。

教室に入ると、一瞬だけ空気が変わる。

……また。

私は何も気にせず一番後ろの席へ向かった。

耳栓をしているから何を話しているかは分からない。

でも。

視線だけは分かる。

いつものことだった。

鞄を机に置き、静かに座る。

前の席の女子が何か話している。

後ろの男子も何か笑っている。

全部聞こえない。

聞こうとも思わない。

私は机に伏せ、眠った。

昨日も二時間しか寝ていない。

それだけだった。



昼休み。

耳栓を外さず、パンを食べようとすると、机の前に誰かが立った。

男子生徒だった。

口が動いている。

何か言っている。

私は小さく首を横に振る。

聞こえない。

男子は困ったように紙を差し出した。

『連絡先交換しませんか?』

私は紙を見つめる。

そして首を横に振った。

私は携帯を持っていない。

必要もない。

紙を返し、もう一度パンを食べ始める。

男子は少しだけ寂しそうな顔をして教室を出て行った。

また静かになる。

……と思った。

次は別の男子。

また紙。

『一緒に帰らない?』

私は首を横に振る。

帰らない。

帰れない。

仕事がある。

男の人は苦手。

それだけだった。

男子は苦笑いして去っていく。

私はパンを食べ終え、袋を鞄へしまった。



放課後。

急いで帰ろうとすると、下駄箱の中に封筒が入っていた。

私は首を傾げる。

開ける。

『好きです。付き合ってください。』

短い手紙だった。

私は折り畳み、近くのゴミ箱へ入れる。

恋愛。

そんなものを考える余裕はない。

生きるだけで精一杯。

それに。

男の人は怖い。

私はそのまま校門へ向かった。

後ろではまた誰かが私を見ていた。

でも私は振り返らない。

振り返る理由がないから。

私の世界は今日も静かだった。
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