卒業まで、好きでした。

冬空の下で知ったこと

十二月に入ると、学校の空気は少しずつ変わり始めた。

三年生の教室には卒業までの日数が書かれ、廊下を歩く先輩たちの姿を見るたびに、「あと少しなんだ」と胸が締めつけられた。

ある日の昼休み。

私は廊下で河野佳織先輩に呼び止められた。

「いのり、ちょっといい?」

「はい。」

佳織先輩は少し周りを見渡してから、静かに話し始めた。

「この前ね、純也のクラスで、いのりのことを話してる子がいたの。」

「……私のことですか?」

「うん。いのりが純也のこと好きって。」

胸がどきっとした。

その人は、小学校も中学校も、そして高校も同じだった。

どこで聞いたのか分からないけれど、私の気持ちは周りに知られていた。

恥ずかしさで何も言えなくなる。

すると佳織先輩は優しく続けた。

「でもね、純也がその子に言ったんだよ。」

私はゆっくり顔を上げた。

「『僕のことはいいけど、後輩のことを言うのは良くないよ。』って。」

その言葉を聞いた瞬間、胸がいっぱいになった。

私は迷惑ばかりかけていると思っていた。

それなのに先輩は、私のことを気にかけてくれていた。

「……そうだったんですね。」

「だから気にしなくていいよ。」

佳織先輩は笑顔でそう言った。

私は小さく頭を下げた。

「ありがとうございます。」

その日の放課後。

帰る準備をしていると、佐伯先輩に声をかけられた。

「あ、この前のクッキーなんだけど。」

私は足を止めた。

「敷戸くんに渡しておいたよ。」

「えっ……。」

思わず声が漏れた。

私は渡してほしいなんて頼んでいなかった。

どうしようか迷ったまま持っていたクッキーだった。

だから、先輩に渡ったと聞いて驚いた。

言葉が出ない私を見て、佐伯先輩は続けた。

「敷戸くんね、『これ、いのりが作ったんでしょ』って言ってたよ。」

私は思わず目を見開いた。

名前も書いていない。

何も伝えていない。

それなのに、先輩は気づいてくれていた。

嬉しいような、恥ずかしいような。

言葉では言い表せない気持ちが胸に広がる。

「……そうなんですね。」

それだけ答えるのが精いっぱいだった。

帰り道、一人で空を見上げる。

冬の空は澄んでいて、とても高かった。

先輩は私の想いに応えてくれたわけじゃない。

でも、人前で私をかばってくれたこと。

そして、クッキーを見て、誰が作ったものなのか気づいてくれていたこと。

その二つの出来事が、私の心をそっと温めてくれた。

卒業まで、あと少し。

終わりが近づくたびに、先輩との一日一日が、かけがえのない思い出になっていった。
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