手フェチ女とピアニスト

「ありがと~! ところで、なんで居酒屋にピアニストの公演ポスターが貼ってあるの?」

 人懐っこいタチの春花が泡盛を飲みながら、店員に尋ねる。
 店員は慣れているのか、「店長の親友らしいです」とすぐに答えた。

「あ、ほら今あの隅の席に、店長といますよ」

 店員が指差す方を見ると、この店の店長らしき男性とピアニストーー黒峰 涼(くろみね りょう)が談笑していた。

「由麻、チャンスだよ!」
「え、ちょっと!?」

 春花は泡盛を飲み干した後、由麻の腕を掴んだ。
 戸惑いの声を上げる由麻を引っ張って、ずんずんと歩いていく。

「あの~、あのリサイタルのチケットを買いたいんですけど~」

 春花が笑顔で店長に声をかける。
 すると、店長の表情がパァッと明るくなった。

「チケット欲しいって言ってくれたお客さん、初めてッス! 用意するので、どうぞこちらに座って下さい!」

 店長に促され、由麻は空いている席ーー黒峰 涼の斜め向かい側に腰を下ろすことになった。
 立ったままの春花を見上げると彼女は、

「あっ夫から連絡来たんで、私は帰ります~。由麻、お会計立て替えとくね!」

 と言い残し、由麻が口を開く前に元の席に戻ってしまった。
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