あなたのほくろには、沼りません!

 浮気されて別れて学んだはずなのに。気づいたら、泣きぼくろがある、冷たそうな印象を与えてくる、雰囲気の危うい男性に惹かれてしまうのだ。
 そして、いつものように浮気され、時には自分が浮気相手の立場となり、恋は終わる。

 たまたま自分が付き合った人間が漏れなく、崇人が言っていた泣きぼくろは浮気性、を体現する人間ばかりだったというだけ。
 外見しか見ずに、人間性まで考慮して付き合わなかった方が悪いことは重々承知の上で、澄花は固く決意していた。
 泣きぼくろがある人間とは、二度と付き合わない、と。
 過去の彼氏との恋愛が上手くいかなかったのは、初恋だった二次元の彼の姿を重ね合わせていたからだ。
 澄花も二十八歳。そろそろ結婚を前提としたお付き合いをしてもおかしくない年齢だ。
 今度は、外見じゃなくて、中身を見て付き合う。

 そう決めていたのに。

 好みというのは恐ろしい。全く興味がなかった、むしろ崇人はどちらかというと苦手なタイプだったのに、泣きぼくろがあるというだけで、心が動いたのだ。
 メガネを外した崇人を見た瞬間、間違いなく澄花の顔は赤くなっていた。
 自分の顔だ。鏡を見なくてもどんな表情をしているのかなんて、考えなくても知っている。
 少女漫画でよく見るような、恋の始まりを予感させる顔をしていたはずだ。

 (そうじゃない。ただほくろに、見惚れていただけ!)

 澄花が否定しても、崇人は言葉通りに受け取らないだろう。
 とはいえ、崇人はきっと澄花の感情を無視する。
 何故なら崇人は澄花と同じく、社内恋愛をしない主義だ。
 
 腐っても崇人は、営業課のエースだ。心の機微にも敏い。そして、上手く受け流す技術もお手の物。
 澄花が万が一、いや、億に一、澄花が、泣きぼくろの魔力に引き寄せられて、とち狂ったことを口走ったとしても。
 崇人は丁寧かつ、無下にいつものセリフを口にするはずだ。
 「社内では、彼女を作らない主義なんだ」
 と。

 そう。どれだけ澄花が崇人の泣きぼくろをこっそり愛でていても、恋愛関係に進むことは。
 絶対にあり得ないのだ。
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