Ironic Honey
Prologue
 本当に軽い気持ちだった。

 その日は通いつけのバーが込み合っていて、隣にたまたまいいなと思った男性が座っていた。

 だけど、口説く勇気もない。だから眺めていただけだった。

 良いなと思っていたのは私だけではなくて、周りも同じように彼のことを見ていて、中には声を掛けて玉砕をしている人もいた。それは、あからさまな声掛けだったから。

 例えば「一緒に飲みませんか」や、「お一人ですか?」と、遠い席から寄ってきて、ねっとりとした甘い声。それを好まなかったのか、返事をするまでもなく掌で制していた。

 そういうはっきりした男性が私は嫌いではなくて、ますます惹かれていった。

 声を掛けてきた女性はやはり自分に自信があるだけあって、見た目も美しく、愛らしい女性達ばかりだった。私とは全くタイプの違う女性。

 こんな私じゃそもそも男性は、恋愛としては相手にしてくれない。

 友達はそれなりに多い、と思っていたが、だんだんと交流をする友人が減ってきた。恋愛はそれなりにしていたかもしれないけれど、二十六歳の時に結婚を意識した相手が、きっと結婚相手は私ではないと理解し切り上げ、別れを選んでから恋愛からは遠ざかっていた。

 そもそも私は割と一人でも大丈夫な方だった。買い物も、食事も、ライブも、旅行も、何でも一人で行ける方で、むしろ定期的に一人の時間が欲しい。そんなタイプ。

 自立した女性が好き、なんて言っていた男性は、すぐに私じゃどこか物足りなくなって、結局私と別れた後の歴代の元カレ達は、愛らしい女性を選んでいたような気がする。

 それを恨んでいるわけでも妬んでいるわけでもなくて、そうだよなと納得しかなかった。

 かと言って、歴代の元カレ達と拗れて別れたわけでもない。ただ円満に、今も時々一緒に食事をするような、友人に戻った相手もいる。

 だけど、周りには恋人が出来た、結婚した、子供が出来た、という、友人という存在よりも大事な相手を見つけ、だんだんと交流は少なくなっていく。それを、寂しいと思わなかったわけでもないが、仕事をすることで満たされていた。
< 1 / 132 >

この作品をシェア

pagetop