Ironic Honey
 私の姿に気付くと、千織は背中にいる羽聖に話しかけた。


「ほら、ママ起きてきたぞ。おはようは? 羽聖。挨拶は大事だ」


 生後三か月の赤ちゃんに真顔で教え込んでいて、じわじわと笑いがこみあげてくる。


「ねぇ、せめて笑いながら教えてくれる? 羽聖キョトンとした顔してるから」

「大事なことは真剣に教えたい」

「真面目すぎる! 大事だけども!」


 笑いながら千織にそういうと、千織も少し笑って、軽く揺れながら羽聖を落ち着かせている。

 いいパパになるんじゃないかと思っていたけれど、思っていた以上に子煩悩で、良いパパだと思う。私のことも大事にしてくれていて、仕事も家事も育児も、本当に頑張ってくれている。


「明日はどこか遠出しようか。聖菜はしんどいか?」

「ううん、少しリフレッシュしたいし、いいね。遠出」

「そうか。じゃあ、家族三人で出かけよう」


 千織の提案に「いいね」と笑って、彼の背中にいる羽聖の頬に触れる。すると社会的微笑と言われるものでか、羽聖はにっこりと笑顔を見せた。


「あ、笑った」

「え? 見たい。ずるい」


 千織は子供のようにずるいというと、背中にいる羽聖を追いかけてクルクルと回っている。その場で追いつかない鬼ごっこをしているだけだ。

 私はそんな間抜けな状況を見て思わず笑う。


「もう、馬鹿ね!」

「見たい。もう一回笑ってくれ、羽聖」


 羽聖はなんのことかわからず、いつもの真顔で千織の背中におさまっている。
< 114 / 132 >

この作品をシェア

pagetop