Ironic Honey
「…そんなこと、全然覚えてない」

「そういうところが小悪魔なんだよ。無意識に俺を魅了するんだから、恐ろしい女性だ」


 そう笑って言う千織に少し照れくさくなって、軽く顔を背ける。


「あなたはなんでも言葉にしないと気が済まないのね。聞いてるこっちが恥ずかしい」

「伝えたいことは伝えておかないと」


 私が彼を振り回している自覚なんてない。むしろ私はずっとこの男に振り回されている。

 第一印象と、今の印象がほとんど違うのだから、彼は良い意味で詐欺師だと思う。最初は近寄りがたいのに、気を許してもらえればこんなに溺愛してくる。


「…私もあなたには惹かれてた」

「本当に?」

「うん。あなたのきっぱり断れるところとか、後は顔も体格もタイプだったから」

「初めて聞く話だな」

「お互いにね」


 千織と二人笑いあい、穏やかな思い出話がずっと続いていた。たった二年の出会いと付き合いなのに、こんなにも濃くて、こんなにも楽しい思い出であふれている。

 久しぶりに自分たちだけの話を出来ているかもしれない。基本的に私達はどこにいても羽聖の話ばかりするから、ゆっくりお互いについて話す時間なんかもなかった。

 この時間を実は求めていたのかもしれない。
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