Ironic Honey
「彼女を侮辱するのはやめてくれないか。俺の、大事な人なんだ」

 千織がそういうとあんずさんは、顔を真っ赤にし、涙がこぼれるのを見ていた。千織はその涙を見ても反応を示すことはない。

 よく女性の涙は暴力なんて言われて、それに弱い男性が多いと思うのだけど、彼の意思は何が起きようと変わらないというのが伝わってきた。


「ちょっと、いいわよ。そこまで私気にしてないし」

「君がよくても、俺が許さない。誰であっても、これから自分の妻になる人に侮辱なんかさせない」


 千織は思ったよりも怒っていて、私が止めても制御が聞かなくなっていた。あんずさんは千織のセリフがショックだったのか、走って家を出て行った。

 
「…あの子は?」

「昔可愛がっていた近所の子だ。十個くらい下の」

「へぇ、随分好かれてたわね」

「千織くんと結婚するっていうのは小さい時の言葉の綾だと思ってたんだが…」

「どう見ても本気でしょう」


 そう苦笑いすると千織はため息をはいていた。

 かわいらしい子供の夢も、大人になれば真剣に考えるからこそ、可愛らしいでは済まなくなる。

 千織は私を選んだわけではない。選ぶ相手もいなかった上に、こんなことになったから。

 彼は、あんなに若い子にも好かれるほど、もっと相手を選べる人なのだ。本当に、後悔しないのだろうか。
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