Ironic Honey
 私がふと顔を背けると、千織はふと私の顔を持ち上げ見つめてくる。

 あ、危険。

 今日、そんな話をした後だからかもしれないけれど、どこか熱く欲望がこの部屋の空気に渦巻いている。

 顔を逸らそうとしても、千織は離してくれない。ぐっと顔を固定されていて、全く動かせない。


「せ…お…っ…」

「嫌ならやめる。身体も無理はさせたくない」

「無理、というか…」

「正直限界だ。こんなに好きな女性が傍にいて、何ヶ月も手を出せないのは」


 今まで一度もそんなことを言ったことなんてなかった。手を出そうともしてきたことはなかったのに。

 彼を見つめていると、軽く口づけてくる。それから見つめあい、軽いキスを何度も繰り返すと、だんだんと深まってくる。このまま流される気はなかったのに、私も久しぶりにくらくらする感覚に思考を奪われていく。

 あの日の記憶はないから、私からしたら初めても同然だった。あの日、どんな風に触れられて、どんな風に言葉を囁かれ、どんな風に見つめられたのか、何もわからないけど、機会があるならもう一度体感したい。


「…聖菜」

「…わかった。わかったから…」


 そういって顔を逸らすと千織はくすっと笑い、私を抱き上げ、寝室まで運ぼうとしている。


「ちょっと…!」

「いいから。じっとしてて」


 千織にそう言われ、おとなしくすると、彼はゆっくりと歩きだす。

 今夜、どうなるかはまだわからない。
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