ねえ、はやく降参してよ。|同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。【連載中】
第一章

第一夜:いまだに転がされ続けている私


 火曜日の夜。

 せっかく広めのソファに新調したというのに、触れ合った肌が少し汗ばんでしまうほどぴったりと身を寄せ、画面を見つめていた。
 流れているのは、肩に回された甘ったるい腕にはひどく不釣り合いなホラー映画。

 ――バンッ!
「……っ」

 突如響いた破裂音とともに、画面の暗がりからおぞましい影が飛び出す。
 思わずビクッと肩が跳ねた。

「……ビックリした?」

 そんな反応を面白がるように、耳元で夫のハルが低く囁いてくる。

「べ、べつに……」

 強がって見せたものの、笑い声を殺して震えているのが肩越しに伝わってきた。

 毎週火曜は、美容師である私の定休日と、夫のノー残業デーが重なる日だ。
 夕飯と入浴を早めに済ませ、こうして映画を観るのがお決まりの流れになっている。

「もうすぐ夏だし」と涼しい顔でこの作品を選んだ彼だが、本音はただ、私が怖がる姿を見たいだけなのだ。
 負けず嫌いな私は、その思惑通りに怯えてみせるのが悔しくて、必死に平然を装うのだけれど。
 この年下夫には、そんな強がりすら格好の娯楽として消費されてしまう。
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